BIS論壇No.165

『転機にさしかかる日米中関係』

2015年9月10日 中川十郎

去る9月8日、神田一ツ橋講堂で開催の首記研究会に参加した。講師は中国研究で有名なキャノングローバル戦略研究所研究主幹・瀬口清之氏。1階、2階ともほぼ満席で、日中米関係に関する関心の高さを物語っていた。BIS名誉顧問の谷口 誠・元国連大使、BIS元顧問の下荒地修二・大林組顧問、元ベネズエラ、パナマ大使なども参加されていた。

講演の要旨は中国経済はニューノーマル(新状態)の政策運営方針の下、適度な経済成長を保ち、中期的には安定を保持する可能性が高い。しかし2020年代後半以降を視野に入れた長期的展望では、中国経済が高度成長から安定成長に移行するのに伴い、経済が不安定化するリスクが高まるとの見方である。そのようなリスクを回避、抑制するために、中国政府は国有企業改革、金融自由化などの構造改革に取り組んでいる。

さらに対外政策面で、新シルクロード構想、それを支えるアジアインフラ投資銀行やシルクロード基金の設立に注力。中国企業にとって安定的な輸出先を確保しようと努力しているというのが、瀬口氏の中国に対する見立てである。

一方、米国はTPP交渉の遅れ、Rebalance, Pivot 戦略でのアジア重視戦略の停滞などから中長期的にみて米国のグローバル経済でのステータスは相対的に低下すると予想。

7月のハワイでのTPP閣僚会合では大筋合意に失敗。9月9日からのTPP参加12カ国の大筋合意のカギを握るとみられるワシントンでの自動車分野の実務者協議は日米とカナダ・メキシコ間で原産地規則を巡り利害が対立。協議の進展は不透明だ。TPPの難航はメガFTAとみなされる日欧のEPA(経済連携協定)や米欧間のFTA交渉にも遅れを齎す負の悪影響を与えつつあると筆者はみている。

最近、中国地方政府は日本企業に対する誘致を積極化させている。日中連携メリットが明確になれば、日中両政府に取り、日中関係改善を促進するインセンテイブとなる。それが日米中関係の安定性確保に貢献するのではないかとの親米的なキャノングローバル研究所のやや楽観的な見方である。いずれにしても第13次5か年計画の中核プロジェクトとしての新シルクロード構想、長江流域経済ベルト、北京、天津、河北省経済圏構想で中国は都市化とインフラ建設が促進され、アジアインフラ投資銀行、「一帯一路」戦略が具体的に動き出す2016年は大型案件が輩出する年になるとの見方だ。

2010年にGDPで日本を抜いた中国は2020年には日本の3倍。20年代には中国が米国を上回る。2024年には一人当たりGDPでも1万5000ドルとなり中国は先進国になる。

訪日中国人は15年に500万人。20年には1000万人となる。かかる環境下、日本は政治面では日米同盟を堅持。経済面では中国を中心とするアジアとの連携を強化し、キープレイヤーとして日本経済の回復を目指せ。日本は製造業・サービス業の産業競争力のソフトパワーで世界経済に貢献すべきだ。「中国の発展は日本の発展、日本の発展は中国の発展」を目指すことこそ日中が21世紀に努力すべきだと力説していたが、傾聴に値すると思う。