BIS論壇No.178

「驚愕のパナマ文書(Panama Papers)漏えい問題」

               2016年4月17日  中川 十郎

 

4月3日、タックスヘブンPanamaの法律事務所 Mossack Fonseca社の内部文書が漏えいし、世界的に大問題になっている。過去、米外交文書を漏えいしたウイキリークスや米国家安全保障局(NSA)の世界的な個人情報不法収集の実情を暴いたスノーデンの文書、データーをはるかに凌駕する200か国・地域の21万4488社のオフショア会社の電子メール、契約書・スキャン文書など1150万件の膨大な租税回避に関する機密文書が漏えいし、史上最大のリーク事件となっている。電子データーにすると2.6テラバイトで、2013年のスノーデン文書は1.7ギガバイト。その1500倍の機密情報がモサック本社および全世界の35以上の事務所と顧客間で1977年から2015年まで40年近く交わされた脱税や資金洗浄(マネー・ロンダリング)などに関する480万通の電子メール、100の画像、210件のPDF文書が含まれているという。

米誌「タイム」4月4日号は「資本主義の大危機につながるかもしれない」。4月19日号の「ニューズウイーク」は「史上最大級の金融スキャンダル、世界を揺るがすパナマ文書」「格差から紛争まで、不正蓄財が助長する不条理な現実」「世界各国の国家元首や財界を巻き込んだ不正蓄財疑惑は国際情勢や企業活動をどう変えるか」「富裕層の租税回避によって割を食う庶民の犠牲、特に貧しい国ぐにの税収が奪われている」「不正の温床となる租税回避地」「墓穴を掘った習近平」などと大きな見出しで報道している。

発端は2015年に匿名でドイツのSueddeutsche Zeitang (南ドイツ新聞)にモサック社の内部関係者から情報が漏らされ、その後、ワシントンの「国際調査ジャーナリスト連合(

International Consortium of Investigative Journalists-ICIJ)」に紹介され、世界の76か国107の報道機関(日本では朝日新聞と共同通信が参加)と連携し370人以上の記者が動員され、1年をかけて取材、分析、解説作業を進めてきた。結果は5月に公表されるという。

日本関係では24の有力大企業と360人のベンチャ企業、富裕層、経営者、大学教授、国会議員なども含まれており、5月に詳細が判明すれば大きな社会問題となるだろう。

既に名前があがったアイスランドのダイグソン首相、スペインのソリア産業相は辞任を表明。キャメロン英国首相などを含め、疑惑をもたれているアフリカ、アラブ、アジア、中央アジア、中國、ロシアなどの政治家なども今後問題視されるだろう。

4月14~15日にワシントンで開催されたG20財務相、中央銀行総裁会議ではOECDグリア事務局長も参加し、タックスヘブンの節税、脱税、マネーロンダリングなど不正防止のために参加国が情報交流を強化することを決定したが、効果のほどは未知数である。

世界的に評判を呼んだ「21世紀の資本」でピケテイは富の格差解消に富裕層への課税強化を訴えた。コロンビア大学のノーベル賞学者ステイグリッツはグローバリゼ―ションやTPPの問題点を指摘。法政大学の水野和夫教授は著書「資本主義は終わった」で資本主義の欠陥を問題視している。リーマンショック以来、利益中心主義の資本主義は転機を迎えている。今こそ、格差のない万人に幸せをもたらす新たな経済、福祉政策が求められている。資本主義は金儲け一辺倒からの脱却をすべきである。

その意味でブータンのGHI(総幸福指標)、ウルガイ大統領の「足るを知る」哲学、渋沢栄一の「論語とそろばん」の哲学の評価が望まれる。

 

上記「パナマ文書」によれば不法な金融取引で2004年~13年までの9年間で途上国は7.8兆ドル(858兆円)の損失をこうむった。不法取引きは年率6.5%の勢いで激増している。米欧日では脱税、資金洗浄などで自国の中間層の食いつぶしにより豊かさの中の格差拡大と貧困が増大しつつある。モサック経由の脱税で500の金融機関、15600社のトンネル会社経由で租税の回避が行われている。

英国の民間団体のTax Justice Networkによれば世界全体で年間1650兆円~2500兆円

の租税が回避されているという。

 

日本に目を向ければ、今回の「パナマ文書」で日本の代表的な大企業24社と360人の株主、政財界トップ富裕層が節税、脱税に関与しているとのことである。

「しんぶん赤旗」(2013年8月25日号)の調査によれば、2013年に日本企業、銀行、政財界富裕層はカリブのタックスヘブンのケイマン島に世界で2番目の55兆円の資産を有しており、これは日本の年間税収45兆円を超えている。

「パナマ文書」ではキャメロン英国首相の亡父、シリアアサド大統領、ポロシェンコ・ウクライナ首相、サウジ国王関係者、プーチンの友人、習近平国家主席親戚などの名前も取りざたされている。

これに対し4月11日のInternet情報によれば、日本関係では飯田セコム創業者や親族、700億円、三井住友フィナンシャルグループ(2兆9788億円)、NTT(7957億円)、三菱東京UFJフィナンシャルグループ(7755億円)、JT(4877億円)、三井住友トラストホールデイングス(7554億円)、トヨタ自動車(3287億円)がタックスヘブンに登録している。

時価総額上位50社のうち45社が子会社をタックスヘブンに設立。その子会社数は354社。資本金総額は7.8兆円で、日本の大企業の大部分が「租税回避行為を行っている」とのことである。このような抜け穴のために富裕層や大企業はますます富み、その穴埋めは中所得層以下の税負担によって行われ、税の不公正が加速している。

以上のほかに電通、三菱商事、丸紅、ファーストリテイリング、オリックス、バンダイ、商船三井、大日本印刷、大和証券、ドワンゴ、ドリームインキュベータ‐、JAL,日本郵船などの名前も挙がっているが、詳細はICIJの5月の発表を待ちたい。

我々としてはとくに日本企業、政財界人の動向を注視し、不正な脱税、節税行為に対しては、税務当局などと法廷闘争も辞さない覚悟で対処すべきと思われる。その意味で今後とも「パナマ文書」の情報収集、分析に尽力したいと思っている。

各位の情報提供、ご協力をお願いしたい。

BIS論壇No.177

「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の現状」

              2016年4月15日 中川 十郎

本年1月に57か国が参加して発足した「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)はこのほど世界銀行と初の協調融資の枠組みで合意し、4月13日ワシントンの世銀本部で世銀キム総裁とAIIB金立群・総裁が署名した。AIIBは今年、約12億ドル(約1300億円)の融資を予定しており、そのうちの大部分が世銀との協調融資になる見込みだとのことである。(朝日新聞 4月14日)AIIBは中央アジア、南、東アジアの交通、水、エネルギー事業などへの融資を検討中で、近く1号案件を発表するという。金総裁は「世銀との緊密な連携で、世銀から学ぶことは多い」と語り、世銀の担当者は「世銀は幹部クラスから現場の担当者までAIIBと深くかかわってきた」と発言。今後、世銀とAIIBとの関係強化が見込まれる。

中国はアジア、中東、アフリカ、欧州を結ぶ経済圏構想の「一帯一路」構想も推進中で、今後AIIBは道路、鉄道など物流面や、発電所、各種プラントなどへの資金供給、融資などで活躍するものと思われる。

3月14日に初の東京事務所を設置した欧州復興開発銀行(EBRD)は欧州や中東で経済支援を手掛けているが、EBRDのスマ・チャクラバテイ総裁は中国が主導するAIIBと年内に少なくとも中央アジアで2つの融資案件を進めることを明らかにしている。(日経3月10日)

EBRDはこれまで、旧ソ連圏や中東欧を中心に支援してきたが、今後は中東・北アフリカ

ギリシア、中央アジアなどでのインフラに融資する方向である。そのため、本年1月にEBRDに加盟した中国との関係強化を目指しているものと思われる。これにより中国側も欧州と「一帯一路」政策も含め、欧州との結びつきを強め、協調融資が増えると思われる。

チャクラバテイ総裁は「新シルクロード構想はEBRDが力を入れるカザフスタンなど中央アジア諸国とも密接に絡んでおり、中國企業と共同で投資を進める。EBRDやアジア開発銀行(ADB)世界銀行だけでは、アジアや中東などの膨大なインフラ需要にこたえられない」と話し、AIIBと積極的に協業する姿勢を示した」(日経3月10日)という。

アジア新興国では鉄道や電力供給網などの建設に多額の資金が必要で、ADBによると2010~2020年に約8兆ドル(約900兆円)のインフラ需要があるが、ADBや世界銀行など既存の国際機関の融資額はその数パーセントにとどまっている。かかる状況下、今後AIIBの世銀や、EBRDとの協調融資はさらに増えるものと思われる。しかしADBの最大の株主で総裁も毎回日本からだしている日本はAIIBの融資基準が不透明だとしてAIIBに批判的で、米国に同調してAIIBには参加していない。逆にAIIBに対抗し、財務省やJICAは中南米とアジアのインフラを取り込むと米州開発銀行(IDB)連携することに4月10日合意し、日本政府が出資してIDB内に500万ドル(約5億円)の基金を設け、ADBとアジアのインフラで連携し、IDBとの連携でAIIBに対抗し世界全域のインフラ投資を主導する体制を整えるという。日本政府は今後アジアのインフラ投資に数年間で1100億ドルを投じるという。日本としてはAIIBに対抗するのでなく、AIIBと協力することこそ第一義とすべきではないか。

 

BIS論壇No.176

 『新宿・京懐石「柿傳」での薄茶とえんの舞に参加して』

2016年4月3日  中川 十郎

BIS文化担当理事をお願いしている、裏千家茶道教授の霜島清子さんのご紹介で4月2日「柿傳」での首記催しに参加した。「柿傳」は有名な建築家の谷口吉郎氏が設計されたJR新宿駅中央東口から1分の安与ビルにある茶室と京懐石さらに地下に陶磁器を常設しているギャラリーのある建物の中にある。1月8日の初釜に参加し、ノーベル文学賞受賞の故川端康成氏も贔屓の「柿傳」の日本的な静かなたたずまいに感銘を受け、BISの隔月の研究会の開催会場にすることを決意し、4月18日のBIS第145回研究会はここで行うことにした。舞に先立ち、林屋晴三先生席主によるえんの舞添え釜で薄茶一服が供された。香合は古伊万里色絵、湯沸はメキシコ製の銀製サモアール、仁清作の茶器、桂離宮の竹で作られた珍しい茶杓、小鷹銘の茶碗、南京染付、建水はミャンマー製金箔地棒の先など茶器も国際的になっていることを感じた。

 

演劇評論家の渡辺 保氏による地唄舞の解説もわかりやすかった。日本の古典舞踊には「舞」と「踊」があるが「舞」は能の動きにもみられるように、回転、旋回する動きを指しているという。それに比べて「踊」は開放的に跳躍する動きとのことである。この「舞」を座敷で、三味線音楽である地唄を伴奏として舞うのが「地唄舞」の初期の形だった由。神崎流は初代が発祥地の大阪から東京に移り、創流。昨日演じられた神崎えんさんが4代目で、ただ一つ東京ではぐくまれてきた地唄舞の流儀である。

地唄舞の源流は200年前の江戸時代中期(1800年ごろ)から末期にかけて上方で発生した日本舞踊の一種で上方舞を基としている。源流になった御殿舞と能を基本にした静的な舞に人形浄瑠璃や歌舞伎の要素を加味した内面的な舞方に特徴がある。単純化された動きで、伴奏に地唄が用いられている。京都の井上流などは京舞と呼ばれている。

 

能からきた舞を三味線音楽の地唄に合わせて舞うものを「地唄舞」と呼び、この舞の特徴は、少ない動きとゆったりしたテンポで歌詞に書かれた「こころ」を表現するところにある。このことが西洋音楽や舞踏と違う点である。昨日の神崎流四世家元の神崎えんさんの地唄舞では会場の照明を消して、演台の二か所のローソクの光の下、心に静かに訴える幽玄、静寂な演技であった。柿傳の茶室で衣ずれの音が聞こえるほどの間近でえんさんの地唄舞「由縁の月」を鑑賞できたことは貴重な経験であった。下記が地歌舞の歌詞である。

ゆかりの月

憂しとみし 流れの昔なつかしや 可愛い男に逢坂の 関より辛い世のならい 思わぬひとに 堰とめられて 今は野沢の一つ水 すまぬ心の中にもしばし すむは由縁の月の影 せもう楽しむ 真とまこと こんな縁が唐にもあろか 花咲く里の春ならば 雨も薫りて 名や立たん