BIS論壇No.176

 『新宿・京懐石「柿傳」での薄茶とえんの舞に参加して』

2016年4月3日  中川 十郎

BIS文化担当理事をお願いしている、裏千家茶道教授の霜島清子さんのご紹介で4月2日「柿傳」での首記催しに参加した。「柿傳」は有名な建築家の谷口吉郎氏が設計されたJR新宿駅中央東口から1分の安与ビルにある茶室と京懐石さらに地下に陶磁器を常設しているギャラリーのある建物の中にある。1月8日の初釜に参加し、ノーベル文学賞受賞の故川端康成氏も贔屓の「柿傳」の日本的な静かなたたずまいに感銘を受け、BISの隔月の研究会の開催会場にすることを決意し、4月18日のBIS第145回研究会はここで行うことにした。舞に先立ち、林屋晴三先生席主によるえんの舞添え釜で薄茶一服が供された。香合は古伊万里色絵、湯沸はメキシコ製の銀製サモアール、仁清作の茶器、桂離宮の竹で作られた珍しい茶杓、小鷹銘の茶碗、南京染付、建水はミャンマー製金箔地棒の先など茶器も国際的になっていることを感じた。

 

演劇評論家の渡辺 保氏による地唄舞の解説もわかりやすかった。日本の古典舞踊には「舞」と「踊」があるが「舞」は能の動きにもみられるように、回転、旋回する動きを指しているという。それに比べて「踊」は開放的に跳躍する動きとのことである。この「舞」を座敷で、三味線音楽である地唄を伴奏として舞うのが「地唄舞」の初期の形だった由。神崎流は初代が発祥地の大阪から東京に移り、創流。昨日演じられた神崎えんさんが4代目で、ただ一つ東京ではぐくまれてきた地唄舞の流儀である。

地唄舞の源流は200年前の江戸時代中期(1800年ごろ)から末期にかけて上方で発生した日本舞踊の一種で上方舞を基としている。源流になった御殿舞と能を基本にした静的な舞に人形浄瑠璃や歌舞伎の要素を加味した内面的な舞方に特徴がある。単純化された動きで、伴奏に地唄が用いられている。京都の井上流などは京舞と呼ばれている。

 

能からきた舞を三味線音楽の地唄に合わせて舞うものを「地唄舞」と呼び、この舞の特徴は、少ない動きとゆったりしたテンポで歌詞に書かれた「こころ」を表現するところにある。このことが西洋音楽や舞踏と違う点である。昨日の神崎流四世家元の神崎えんさんの地唄舞では会場の照明を消して、演台の二か所のローソクの光の下、心に静かに訴える幽玄、静寂な演技であった。柿傳の茶室で衣ずれの音が聞こえるほどの間近でえんさんの地唄舞「由縁の月」を鑑賞できたことは貴重な経験であった。下記が地歌舞の歌詞である。

ゆかりの月

憂しとみし 流れの昔なつかしや 可愛い男に逢坂の 関より辛い世のならい 思わぬひとに 堰とめられて 今は野沢の一つ水 すまぬ心の中にもしばし すむは由縁の月の影 せもう楽しむ 真とまこと こんな縁が唐にもあろか 花咲く里の春ならば 雨も薫りて 名や立たん