BIS論壇No.183

「米コロンビア大学ロバート・マンデル教授の思い出」

  2016年5月28日

米コロンビア大学日本経済経営研究所元客員研究員 中川 十郎

5月12日、米コロンビア大学ビジネス・スクール創立100周年記念パーテイが帝国ホテルで開催された。学院長のグレン・ハーバード教授や、日本経済経営研究所所長のヒュー・パトリック名誉教授、日本政治研究の第一人者のジェラルド・カーテイス名誉教授なども参加し、盛大であった。このパーテイには伊藤隆敏コロンビア大学国際公共政策大学院教授・元東大教授も参加されていた。伊藤教授とは10数年前にロバート・マンデル教授が帝国ホテルでの講演に参加の際、マンデル教授と共にランチをともにしたことがあり、面識がある。

パーテイの席でしばらく疎遠にしているがマンデル教授はお元気ですかと聞いたところ、逝去されたとのことで驚いた。マンデル教授とは筆者がコロンビア大学日本経済経営研究所客員研究員以来15年来懇意にしていたので、逝去の報にショックを受けた。

2002年~2003年にかけ筆者はコロンビア大学客員研究員として世界経済、経営、情報論を勉強した。国際金融論の大家でマンデルフレミング理論でも名高く、1999年にノーベル経済学賞を授与されたマンデル教授と2001年に同じくノーベル経済学賞を受賞されたステイグリッツ教授の講義がコロンビアでは有名で、私も両教授の講義を受講した。ステイグリッツ教授は日本経済を講義した後、これで正しいかと日本から留学している私に謙遜してよく確認された。マンデル教授の講義はかってMITで数学も専攻されているだけあり、数式をふんだんに活用したエコノメトリック的な金融論の講義でついていくのが大変だった。

講義が終わった後、日本から国際マーケテイング研究を中心にコロンビア大学に留学していると挨拶した。その時、実は東京での講演に呼ばれて、近く東京と京都を訪問すると話しがあった。それならば私が理事をしている日本貿易学会の会長初め幹部に逢ってもらいたい。できれば同学会の顧問になってほしいと頼んだ。そのあと教授、職員専用のカフェテリアでランチを取っていたところ、大学院生と一緒に食事していたマンデル教授が一緒に食事しようと招待された。これがマンデル教授との不思議な出会いであった。マンデル教授は大のイタリアワイン、料理通であるところより、皇太子が学生時代よくいかれたという高田の馬場の『文流』を予約した。ここの経営者は私の大学時代の西村先輩で、同氏のイタリア料理教室がマンデル教授のイタリアのシエナの別荘の近くで、懇意にしておられるとのことで、不思議な御縁に驚いた。

マンデル教授とはその後、オリンパスの特別委員として一緒に東京や香港、シンセンへの出張、長野や、福島工場の訪問、湯河原温泉などにご一緒し、家族ぐるみでお付き合いいただいた。旅館のお部屋に伺うとナプキンにたくさんのメモをとられ、発想を大切にしておられることに感銘を受けた。香港のホテルのバーで素晴らしい夜景を背景に教授の好きなワインを一緒に飲みながら、日本の将来は英語でいかに外国人とコミュニケーションできるかにかかっている。日本人学生への英語教育に尽力するようにとアドバイスされていたことを懐かしく想い出す今日この頃である。ご冥福をはるかに祈る次第である。

BIS論壇No.182

『伊勢志摩G7サミット』

2016年5月28日 中川十郎

2016年5月26~27日、伊勢志摩で行われたG7サミットの議長声明を安倍首相が記者会見で発出した。一連の発表を聞いていて、ブエノスアイレスで東京オリンピックの誘致に関して安倍首相が強調した『福島原発は Under Control』という強引な発言を思い出した。

日本の東京五輪・パラリンピック誘致委員会がシンガポールの実態のない「ブラック・タイデイング」と契約を結び、2億3000万円を支払った疑惑についてもフランス検察などが取り調べを進めている。これに対し日本政府や検察は本格的な調査を開始していない現状だ。ここでもパナマ文書でも名前が挙がっている「電通」が暗躍しているようだ。この機会に電通の実態を徹底的に調査することが肝要と思われる。

上記議長声明で安倍首相は「世界経済に関して不透明さが残っており、世界的に市場が動揺している。最大のりスクは新興国経済に陰りが見え始めていることだ。世界経済の成長率は昨年、リーマンショック以来最低を記録した。最も懸念されることは世界経済の収縮だ」と、リーマンショックという言葉を何回も繰り返し危機を力説。「G7はその認識と強い危機感を共有した。金融、財政、構造政策を進め、3本の矢を放つことを合意した。アベノミクスを世界に展開する。」と独りよがりの発言に終始した。G7の中でGDP成長率が最低で本年度はマイナス成長も予想されている中、アベノミクスの失敗が自明であるにも関わらず、日本経済の実情をわきまえず、このように大言壮語することは実態を見失うことになるのではないか。日本経済の現状と、足元をまず謙虚に見つめることこそ肝心だ。

安倍首相が「世界経済はリーマンショック前の状況に似ている」と強調することには経済専門家からは違和感が表明されている。SMBC日興証券の丸山義正氏は「リーマンショック級の危機が迫っているといわれるのは違和感を覚える。リーマンとは状況が違う」と批判。大和証券の熊谷亮丸氏は「現在の新興国景気の低迷とリーマンショックによる世界的な景気悪化は構造が異なる」と指摘がある。(朝日新聞5月28日)筆者も全く同感である。

これは安倍首相が過去「東日本クラスの大震災とリーマンショックのような事態が生じない限り、消費税は2017年4月に引き上げる」と何度も約束してきた事実を反故にして、来春の消費税増税を見送るための口実にしているとの見方が強い。G7の首脳会談を引き合いに出し、議長声明で「世界経済の現状はリーマン前の危機的状況だ」と牽強付会し、消費税増税を延期するのは姑息な手段ではないか。「パナマ文書」で言及されている代表的なタックスヘイブンのケイマン島(筆者はかって商社時代ニューヨーク駐在中、現BISワシントン代表の今村氏とヨットハーバー買収商談で訪問したことがある)には1万8857の企業があり、日本の企業の投資は2015年の時点で63兆円という国税収入を超える金額が流れている。(国際決済銀行の発表=『パナマ文書の正体』大村大次郎著(ビジネス社)92ページ)。安倍政権はケイマンの日本企業から正しく税を徴収することで消費税増税を取りやめることさえ可能になるという。ただちにケイマンの日本企業の脱税、節税調査を開始すべきだ。

世界的にみても南太平洋などの島嶼部のタックスヘブンだけで1800兆円の資金が集めれれているという。これは世界総生産の実に3分の一に匹敵する。早急な調査が求められる。

BIS論壇No.181

『米コロンビア大学シンポジウムに参加して』

中川 十郎

さる5月12日、13日コロンビア大学関係のセミナーが東京であり参加した。

5月12日はコロンビア大学ビジネススクール創設100周年記念パーテイが帝国ホテルで、

13日は私も2002~2003年客員研究員として留学したコロンビア大学ビジネススクール・日本経済経営研究所創立30周年記念「日米の経済関係」コンファレンスがホテルニューオータニで開催された。

12日のパーテイではブシュ・シニア-政権で2001年から03年まで大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務め、現在コロンビア大学ビジネススクール院長を兼ねるコロンビア大学教授グレン・ハバード氏があいさつした。経済・金融の本場ニューヨークで1916年以来100年にわたる伝統を誇るコロンビア・ビジネススクールの歴史と主要卒業生の世界的な活躍ぶりが報告された。日本からのビジネススクール初の留学生はキッコーマン醤油の茂木会長、女性初の留学生は鶴田知佳子・現東京外国語大学大学院教授で、両氏も参加されていた。鶴田教授はNHKの衛星放送の同時通訳で名声を博しておられる。筆者がニチメンン・ニューデリ支店駐在時、鶴田教授のお父上が東京銀行ニューデリ支店長をされており、社宅が近かったこともあり、以来、親しくしており、不思議な御縁を感じている。

ハバード院長によるとビジネススクールへの中国、インド、韓国の留学生は増加傾向にあるが、日本の留学生は一時に比べ半減しているとのこと。日本政府や文部科学省、大学はグローバル教育を喧伝しているが、日本留学生の実態は、まことにゆゆしき事態である。  筆者がかって客員教授として在籍した北京対外経済貿易大学への留学生も韓国や米国の留学生に比し、日本人留学生の落ち込みが顕著で、日本のグローバル教育の将来について悲観的にならざるを得ない。日本は国際教育について抜本的な対策を講じなければ、他国に伍していけなくなるのではとの危機感を抱いた。13日のコンファレンスには安倍首相も出席され、挨拶されたが、国際教育について日本の抜本的な戦略が必要と思われる。

コンフェレンスでは「激動する東アジアの中の日米関係」、「日米経済の国際的展望」、「イノベーションの秘訣~企業文化とガバナンス」、「安倍のミクス 第2ステージ -成果と今後の挑戦」など白熱ある有意義な討議が行われた。特にアベノミクスに関する討議では討論者の新浪剛史・サントリー社長と伊藤隆敏・コロンビア大学国際公共政策大学院教授の発表は圧巻で、日本の大学、企業が内向きでグローバルな視野に欠け、国内で同質の価値観で思考、行動をしており、抜本的な意識、組織改革を行わなければ日本は学術、ビジネスとも世界で孤立、劣化していくだろうとの指摘は参加者に強烈なインパクトと危機意識を喚起した。

日米の学術研究をめざし、日本経済研究所を創設し、以来30年間、日米の経済経営研究に邁進しておられるHugh Patrick所長・コロンビア大学名誉教授の熱意が今回の素晴らしい30周年コンフェレンスを成功に導いた。80歳後半の同教授の気魄とたゆまぬ日米経済経営研究の努力と学究に強い感銘を受けた今回の30周年記念日米経済シンポジウムであった。

日本ビジネスインテリジェンス協会 研究会開催の御案内

25周年・第146回ビジネス・インテリジェンス研究会のご案内

PDFでのダウンロード: bisj-146-20160620invitaion

                   会長・名古屋市立大学特任教授 中川 十郎

五月晴れの下、新緑が目に染みる、すがすがしい気候の今日、この頃ですが、皆様にはますますご清祥にお過ごしのことと存じます。さて本年2月12日に創立25周年を迎えました当協会第146回情報研究会は、少子高齢化が急速に進みつつある日本で男性の3人に2人、女性の2人に1人がガンになり、65歳以上の4人に1人がアルツハイマー予備軍と、ゆゆしき時代を迎えている状況下、「健康医療情報」を中心に、当協会名誉顧問の広瀬輝夫・ニュヨーク医科大学臨床外科元教授、スリランカ・アユルベーダ省Perera博士の特別ご参加も得て下記要領で、国際文化会館講堂で開催します。健康医療に関心のある友人・知人もお誘いの上、皆様多数ご参加ください。

講演

1)『東洋、西洋医療の融合とTPPが日本の健康、医療に与える影響』(18:10-18:40)
広瀬輝夫・国際融合医療協会理事長、元ニュヨーク医科大学臨床外科教授

 

2)『伝統医療、スリランカ・アユルベーダの現代医療への応用』(18:40-19:10)
Danister Perera・スリランカ・アユルベーダ省・医学博士
『アユルベーダと新薬・コロイドヨード』前山和宏・鳳龍会クリニック院長

 

3)『音楽と特殊音響による自然治癒力活性化療法』(19:20-19:40)
平田小百合・サイマテイクスドクター、日本マナーサウンド協会代表理事

 

4)『珪素水活用療法』(19:40-19:55)
東 学 工学博士、グローバルハート顧問

 

5)『テラヘルツ、赤色光合成菌活用ココナッツオイル療法』(19:55-20:10)
山田千鶴子・サアン医学気功研究院理事長

 

6)『ICTの医療への活用の現状』(20:10~20:25)
成田徹郎・国際医療福祉大学大学院前特任准教授、IBM・BI部門元執行役員

 

7)『ワンストップ医療と国際医療観光の将来』(20:25~20:40)
古田一徳(ふるたクリニック院長、元北里大学准教授)

 

「質疑応答」(20:40~21:00)
希望者は講演会終了後、食事懇親会(4,000円)

 

日時;2016年6月20日(月)18:00~21:00

場所;国際文化会館講堂 港区六本木5-11-16
Tel.03-3470-4611

(大江戸線、南北線 麻布十番駅よりそれぞれ、5分および8分)

参加費:3,000円。学生1,000円。(資料代含む。食事なし。事前か事後食事下さい)

参加ご希望の方は6月13日(月) まで必着でお申込み下さい。

当日のキャンセルは恐縮ながら会費を申し受けますので、代理出席などをご配慮ください。

日本ビジネスインテリジェンス協会

御参加者氏名 (必須)

御申込種別 (必須)

所属

役職

御連絡先メールアドレス (必須)

申込対象研究会

御申込連絡事項

BIS論壇No.180

「TPPの現状」

2016年5月3日  中川 十郎

TPPの国会審議は熊本地震で延期されている。米国はじめ参加国との守秘義務合意によるとして安倍政権は、全ページ黒塗りのTPP資料を臆面もなく国会に提出した。これでは国会審議ができるわけがない。そもそも交渉内容を条約締結後4年間は公開しないなどの機密取り決めで、貿易交渉をするなど先代未聞だ。これは米国のTPP交渉の背後にうごめく「TPPを推進する米多国籍企業の会」の100社以上の米多国籍企業の企業益を守るための戦略と思われる。筆者が米コロンビア大学留学時、国際経済の講義を聴講し、面識もあるノーベル経済学賞受賞のステイグリッツ教授はTPP交渉、なかでもISDS(企業が国家を訴えられる条項)は通商交渉で過去に例を見ない悪法だとして米議会に抗議文を提出しているほどだ。

米国に50年以上滞在され、心臓のバイパス手術で世界的に高く評価されている広瀬輝夫・NY医科大学元教授はTPPは特に医療分野で日本の医療、健康保険などに致命的悪影響をあたえるとしてTPPの危険性を訴えておられる。

先日もニューヨークから国際電話で、筆者も関係している「国際アジア共同体学会」や「TPP交渉から即時撤退を要求する学者の会」などが今こそTPPの危険性を広く訴えて、国会承認に反対すべきだと力説された。

『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』、『ルポ 貧困大国アメリカ』、『沈みゆく大国アメリカ』などで健筆をふるっておられる 堤 未果氏の近著『政府はかならず嘘をつく』増補版「角川新書」を連休に読了した。堤氏は「74000人の失業者を出すTPPのわな!」

「後からじわじわ危険が迫るマイナンバー!」など米国での経験も参考にして一級の資料と人脈による情報を駆使し、特にTPPの問題点をえぐり出している。「政府はうそをつく。だから政府が言うことを鵜呑みにせず判断しなさい」と警告している。

『民主党政権が参加表明したTPPを「平成の売国奴だ」などと反対し、政権を奪い返した自民党は2016年2月、他の参加国と共にTPP調印式で署名をした。マスコミは相変わらずこの条約を「関税」と「農業」に矮小化した報道を続け、日本国民にはこの条約の主目的が非関税障壁の撤廃であることも、世界中で反対の声があがっている事実も知らされていない』(3ページ)と警告している。日本人にはTPP交渉を仕切る米多国籍企業のロビイストの存在や、TPPの最大のターゲットは日本の医療であること。世界でISDSの米国の訴訟乱用が加速中であること。国連が参加国政府に「TPPは署名も批准もするな!」と警告しており、また米国大統領候補のすべてがTPPに反対していることなど、いまもTPPの実態が知らされていない。逆に自民公明の与党はTPP参加により日本では雇用が80万人増加し、GDPは2.6%増加するなどバラ色の楽観論を振りまいている。報道の自由度ランキングが世界で72位に落ち込み、政府による情報規制、操作が行われていると国連専門家や国際NGOも問題視している実情をしっかり見据えてTPPの問題点を認識することを、情報を長年研究しているBIS会員各位に強調したい。