BIS論壇No.180

「TPPの現状」

2016年5月3日  中川 十郎

TPPの国会審議は熊本地震で延期されている。米国はじめ参加国との守秘義務合意によるとして安倍政権は、全ページ黒塗りのTPP資料を臆面もなく国会に提出した。これでは国会審議ができるわけがない。そもそも交渉内容を条約締結後4年間は公開しないなどの機密取り決めで、貿易交渉をするなど先代未聞だ。これは米国のTPP交渉の背後にうごめく「TPPを推進する米多国籍企業の会」の100社以上の米多国籍企業の企業益を守るための戦略と思われる。筆者が米コロンビア大学留学時、国際経済の講義を聴講し、面識もあるノーベル経済学賞受賞のステイグリッツ教授はTPP交渉、なかでもISDS(企業が国家を訴えられる条項)は通商交渉で過去に例を見ない悪法だとして米議会に抗議文を提出しているほどだ。

米国に50年以上滞在され、心臓のバイパス手術で世界的に高く評価されている広瀬輝夫・NY医科大学元教授はTPPは特に医療分野で日本の医療、健康保険などに致命的悪影響をあたえるとしてTPPの危険性を訴えておられる。

先日もニューヨークから国際電話で、筆者も関係している「国際アジア共同体学会」や「TPP交渉から即時撤退を要求する学者の会」などが今こそTPPの危険性を広く訴えて、国会承認に反対すべきだと力説された。

『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』、『ルポ 貧困大国アメリカ』、『沈みゆく大国アメリカ』などで健筆をふるっておられる 堤 未果氏の近著『政府はかならず嘘をつく』増補版「角川新書」を連休に読了した。堤氏は「74000人の失業者を出すTPPのわな!」

「後からじわじわ危険が迫るマイナンバー!」など米国での経験も参考にして一級の資料と人脈による情報を駆使し、特にTPPの問題点をえぐり出している。「政府はうそをつく。だから政府が言うことを鵜呑みにせず判断しなさい」と警告している。

『民主党政権が参加表明したTPPを「平成の売国奴だ」などと反対し、政権を奪い返した自民党は2016年2月、他の参加国と共にTPP調印式で署名をした。マスコミは相変わらずこの条約を「関税」と「農業」に矮小化した報道を続け、日本国民にはこの条約の主目的が非関税障壁の撤廃であることも、世界中で反対の声があがっている事実も知らされていない』(3ページ)と警告している。日本人にはTPP交渉を仕切る米多国籍企業のロビイストの存在や、TPPの最大のターゲットは日本の医療であること。世界でISDSの米国の訴訟乱用が加速中であること。国連が参加国政府に「TPPは署名も批准もするな!」と警告しており、また米国大統領候補のすべてがTPPに反対していることなど、いまもTPPの実態が知らされていない。逆に自民公明の与党はTPP参加により日本では雇用が80万人増加し、GDPは2.6%増加するなどバラ色の楽観論を振りまいている。報道の自由度ランキングが世界で72位に落ち込み、政府による情報規制、操作が行われていると国連専門家や国際NGOも問題視している実情をしっかり見据えてTPPの問題点を認識することを、情報を長年研究しているBIS会員各位に強調したい。