BIS論壇No.187

『石川 昭 名誉顧問をしのぶ-追悼記』

中川十郎

2000年以来15年以上にわたりBIS顧問として一方ならずお世話になった石川 昭BIS名誉顧問がさる6月24日、前立腺がんのため逝去された。昨日開催の日本イノベーション融合学会の席で同学会最高顧問・石川 昭先生のご逝去を知り、突然の悲報に愕然とした。

昨年12月14日、東京倶楽部で開催の第143回情報研究会懇親会で、いつもながらの大きな声で元気のあるご挨拶を頂いたのが最後となった。思えば石川先生との出会いは1990年2月に20年以上の商社海外駐在から帰国し、同年9月に日本で最初のビジネスインテリジェンス紹介の翻訳書『CIA流戦略情報読本』をダイヤモンド社から出版したことがきっかけである。日本での情報研究の実情を調査していた時、石川 昭先生の名著『戦略情報システム入門』日本経済新聞社(1986)に遭遇した。数式や統計を活用された緻密な論理構成の情報論に感銘を受けた。日本にもこのように国際的に活躍されている情報研究家がおられることに驚いた。ある時、日本ナレッジマネジメント学会研究会に参加した。この学会理事として石川先生が活躍しておられ、その場でご挨拶した。これがご縁で以来、25年間御指導を頂くことになった。人生のご縁とはまことに不思議なものだ。

石川先生には日本危機管理学会監事にも任命いただいた。さらに石川先生が最高顧問をしておられる日本イノベーション融合学会の副会長にも推薦頂き感謝している。

2000年には東京経済大学創立100周年記念講演会「大学院での教育はいかにあるべきか」のパネル討論会に石川先生をお招きした。先生は青山学院大学大学院国際政治経済研究科を創設され、研究科長を歴任されていたので、先生に白羽の矢が立った次第である。この時以来、石川先生とは妙に気が合い親しくなり、そのご縁で2000年以来16年間、日本ビジネスインテリジェンス協会顧問をお願いし、長年ご指導を頂くことになった。石川先生は防衛大学第1期生の秀才で米国に留学された。しかし防衛大学には帰えられず、そのまま米国でニューヨーク大学大学院助教授、ラトガース大学大学院終身教授、ハワイ大学大学院客員教授を歴任。さらに筑波大学、テンプル大学、国際大学、ウルム大学各大学院でも教鞭をとられた。非常な勉強家で日本語、英語の著書も国内外で数多く出版されている。

2011年2月には日本ビジネスインテリジェンス協会創設20周年、研究会開催100回を記念し、石川先生のお骨折りで『知識情報戦略』を共編著で税務経理協会から発刊できた。

2013年にはシンガポールのWorld Scientific社から英文の“An Introduction to Knowledge Information Strategy ~From Business Intelligence to Knowledge Sciences~”を出版。

当協会の20年間の情報研究成果が英文で世界に発信され、海外でも好評を博した。

これもひとえに石川先生のご尽力の賜物で厚く御礼を申し上げたい。一方、2008年以来、明治大学のリバテイアカデミーとの共同講座「ビジネスインテリジェンスとグローバルマーケテイング」にも講師としてご参加いただいたことを懐かしく想い出す。

200人のBIS情報研究会員ならびに25年間に研究会に参加した10000人以上の聴講参加者を代表し、ここに感謝と深甚なる哀悼の意を表する次第です。安らかにお休みください。

日本ビジネスインテリジェンス協会 研究会開催のご案内

日本ビジネス・インテリジェンス協会

      Business Intelligence Society of Japan

25周年・第147回ビジネス・インテリジェンス研究会のご案内

                  会長・名古屋市立大学特任教授
中川 十郎

暑さも本格的となってまいりましたが、皆様には猛暑にもめげず、ご清祥にお過ごしのことと存じます。さて822日(月)の第147回情報研究会は、ビジネスインテリジェンス(高度経済経営情報)の収集・活用法を中心に、情報専門家の皆様にご講演をいただきます。情報の収集、分析は混迷する世界の政治、経済の予測に必須となって来ております。情報に関心をお持ちの皆様、友人知人もお誘いの上、多数のご参加を期待いたします。

講演

1)『競争情報(Competitive Intelligence)と経済地政学』(610~630pm)

菅澤喜男・日本大学大学院グローバルビジネス研究科教授

2)『危機管理とサイバーセキュリテイ』(630~650pm)

原田 泉・日本危機管理学会理事長・社会経済研究所主任研究員

3)『中国経済の将来展望』(6:50~710pm)

藤野文晤・富山・北東アジア研究所所長、元伊藤忠商事常務取締役

4)『ASEANとAEC(アセアン経済共同体)の将来』(7:20~7:40pm)

朽木昭文(日本大学生物資源科学部教授)

5)『ビジネスインテリジェンスとグローバルマーケテイング』(7:40~8:00pm)

中川十郎(日本ビジネスインテリジェンス協会会長)

質疑応答:8:00~8:20pm

食事懇親会 830~10:00pm(3500円)-希望者(参加申し込み時連絡ください)

日時;2016年8月22日(月)6:00pm~8:30pm

場所;安代ビル7階(「柿傳」のあるビル) 新宿区新宿3-37-11(Tel 03-3352-5120)

JR 新宿駅中央東口(高島屋側出口)より徒歩1分

参加費: 3000円。学生2000円。(資料代含む。ただし食事代は含まず)

事前か事後食事下さい

参加ご希望の方は8月15日(月) までに必着でご返事下さい。

当日のキャンセルは恐縮ながら会費を申し受けますので、代理出席などをご配慮ください。

日本ビジネスインテリジェンス協会

Fax 03-5497-3259,  Tel 03-5497-3260 e-mail; jm-naka@mvb.biglobe.ne.jp

お名前(          )ご所属(           )役職(         )  8月22日(月) 6:00~8:30pmの 25周年 第147回・情報研究会に参加する(     )欠席する(    )。 今後、連絡は不要(    )。 いずれかに○をお付け下さい。

環太平洋経済連携協定TPPについて

「環太平洋経済連携協定TPPについて」

22世紀学会研究会 2016年7月26日(火)大阪大学虎の門東京校

                            中川 十郎

                      名古屋市立大学22世紀研究所特任教授

                         国際アジア共同体学会理事長

                      日本ビジネスインテリジェンス協会会長

TPPと国会承認

昨年10月に合意され、本年2月に12カ国の関係者で調印されたTPPは関係国の国会承認を得る段階に至っている。

日本政府のうたい文句は「21世紀型の貿易協定で、参加12カ国は世界のGDPの40%を占める最大の貿易協定で、日本が参加することで、アベノミクス成功の基盤となる重要な貿易協定で一刻も早く国会承認を成立させるべきだ」とメデイアも大合唱している。

7月18日付け日本経済新聞社説は“まず日欧FTAとTPPに集中せよ”と力説し、「TPPは日・EU交渉にも影響している。EU側は一部の農産品でTPPを上回る関税削減や撤廃を求めているからだ。一方でTPPには米大統領候補が反対を表明している。しかし、12カ国の交渉をやり直すのは非現実的だ。TPP再交渉の余地がない点を示すためにも日本は率先してTPP協定案を速やかに承認すべきだ。それを通じて米議会にTPP協定案の早期審議を促しつつ、日・EU交渉も加速する。そんな二正面作戦が求められている」と日本の財界を代弁するような、財界寄りの意見を掲載している。

このような動きの中、経団連、日本商工会議所、経済同友会、日本貿易会の経済4団体のトップは首相官邸を訪れて、TPPの早期実現を求める要望書を提出。経団連の榊原定征会長は「反グローバリズムの流れを断ち切るため、日本が率先して承認することをお願いしたい」と臨時国会での早期承認を求めたという。これに対し、安倍首相は「早期発効の機運を高めたい」と応じたという。(朝日新聞)

経済同友会が今春、会員73社から得たアンケートではTPPの活用方法について、TPPの発効が見通せないこともあり、42%が「当面様子を見る」と回答したという。

政府は今年の通常国会でTPP協定の承認案と関連法案の成立を目指したが、衆議院では継続審議となった。臨時国会でも民進党や共産党などの野党はTPP反対をかかげて参議院選挙を戦ったので、混乱が予想される。

米国の議会対応

しかし7月18日に始まった共和党全国大会で採決する政策綱領草案には「環太平洋経済連携協定(TPP)に関しては再交渉で、より良い条件の貿易協定を結ぶ」と、盛り込んであり、日経や経団連など日本財界が希望しているTPPの米国議会での早期承認は難航すると判断するのが現状では正しいのではないだろうか。

一方、前述通り、TPPを推進してきた米国でも、大統領候補のヒラリークリントン氏や、サンダース氏、トランプ氏などがTPP反対を表明しており、米国での議会承認は容易ではないと思われる。ただしTPPの再交渉を主張していたヒラリー氏の動きにもかかわらず、公表された米民主党の11月の大統領選挙に向けた党の政策綱領草案にはTPPの議会採決阻止は明記されていないという。(日経 7月17日)

サンダース氏やトランプ氏などはTPPの再交渉を唱えており、来年1月任期のオバマ大統領の任期中にTPPの議会承認は容易ではないと見られている。

TPPの秘密交渉

このような状況下日本が率先して拙速にTPPの国会承認を得ることは問題だ。さきの国会でのTPP審議に際して政府は臆面もなく黒塗りの交渉文書を提出しその秘密ぶりが大きな問題となった。国民に交渉経過や合意の内容に関して納得のいく説明をすることが先決だ。このTPPは交渉の過程を含め、合意後4年間は交渉内容を公開せず、秘密にすることになっている。通商交渉において交渉締結後も長期にわたり交渉内容を公開しないとの条項は米国が主導して挿入したものだ。

米国のノーベル経済学賞受賞のステイグリッツ米コロンビア大学教授は、TPPは最悪の秘密通商交渉だとして、米議会に抗議の文書を提出している。世銀の副総裁、米大統領経済諮問委員会委員長を歴任し、国際経済・貿易専門家でもあるステイグリッツ教授はさらにTPP協定に盛り込まれているISDS(企業が国家を訴えられる裁判制度)についても企業が国家を訴えられる条項は国際法に反するとして強硬に反対している。

かかる多くの問題を有するTPPを最大の利害国である米国の議会承認前に、日本だけで早急に今秋にTPPを承認をしてほしいと経済界トップが安倍首相に要望すること自体がおかしい。TPPに関しては米国の多国籍企業100数社が企業益を狙い「TPPを推進する多国籍企業の会」を結成し、日本を中心にアジアへのビジネス拡大を目指し、米議会に強力なロビー活動を展開している。TPPはまた米国のアジアへの転換戦略PIVOT作戦に基ずく米国の国益増大戦略でもある。

TPPの問題点とEUとのFTA交渉

TPPは関税削減、撤廃のみでなく、貿易円滑化、紛争処理、食と健康の安全、医療保険、医薬品、知的財産、投資、サービス貿易、金融、政府調達、国有企業、労働、環境など実に30の分野について合意を要求されており、超国家法規が含まれている。日本国家の国益、国民の利益の面からも拙速に短時間で国会承認を得るにはあまりにも広範で大きな制約と問題がある。経団連などが早期の国会承認を要請することは問題だ。むしろ日本国の100年の大計を見据えて、国民にも広くTPP合意事項を公開し、国民と共に時間をかけて慎重に議論すべき協定だ。

筆者は長年のTPP研究と過去30数年の貿易商社勤務中20数年の海外駐在での国際貿易の経験から判断してTPPは拙速を戒め、慎重のうえにも慎重を期して対応しなければ日本にとって悔いを千載に残すことになると危惧している。

TPPは:

①解決に多大の時間と労力がかかった江戸時代の開国時の不平等条約、

②1945年の第二次世界大戦での日本の武力敗戦による長年の国民の苦労、

③40年後の1985年、米国の円切り上げ要求に屈したプラザ合意での金融敗戦により現在まで30年以上も継続しているデフレ不景気と経済の不振と低経済成長、

④2016年のTPP承認により4度目の貿易敗戦を喫することになるだろう。日本にとり社会的にも1945年の敗戦以来、最大規模の悪影響を及ぼす悪法がTPPだと認識している。

したがってTPPの国会承認に際しては、時間をかけて慎重のうえにも慎重を期して国民的議論と審議をすべきだと確信している。

EUと米国とのTTIP(環大西洋貿易投資連携協定)も本年中の合意を目指して交渉が継続していたが、6月の英国のEU離脱決定の影響もあり、合意にはさらに時間がかかるだろう。

また日本とEUとのFTA(自由貿易協定)も交渉に時間がかかることも踏まえて、TPP国会承認については慎重に検討することが肝要であることを強調したい。

TPPの内容と問題点

財務省大臣官房参事官・岸本 浩氏の2016年5月17日の関西学院大学、東京商工会議所、日本関税協会主催の「TPP協定の意義とこれからの貿易・ビジネスの展開」~貿易・ビジネスはどう変わるか、TPPをどう生かすか~の資料によれば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について「アジア太平洋地域において、物品及びサービスの貿易並びに投資の自由化及び円滑化を進めるとともに、知的財産、電子商取引、国有企業、環境等幅広い分野で21世紀型の新たなルールを構築するための法的枠組みについて定める」として、

*21世紀のアジア太平洋にフェアーでダイナミックな「一つの経済圏」を構築する試み。

世界のGDPの約4割(これは約80%が日米二国の合計だ。したがってTPPは実質的に日米二国間のFTAだ。~筆者注)、世界人口の一割強を占める巨大な経済圏。

*TPP協定締結により我が国のFTAカバー率は22.3%から37.2%に拡大。

*物品関税だけでなく、サービス・投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業など幅広い分野の新しいルールを構築。

*我が国にとっての経済効果は、実質GDPを2.59%(約14兆円)、押上げ、雇用を1.25%(約80万人)増加させる見込み。(この数字はTPP発効後、何年後か明記がない~筆者注)

この資料はTPPの農業や食の安全、ISDSなどの問題点には触れないでバラ色の未来を喧伝している。これは原発推進に際して自民党と原子力村が吹聴した「原発の安全神話」に共通する宣伝と一脈相通じるものがある。

われわれはこのようなTPPのバラ色の幻影に惑わされることなく、TPPの問題点とその日本への影響を十二分に考究することが必要である。

そもそもTPPは2006年に小国のシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの4カ国がアジア太平洋地域4カ国で結成した自由貿易協定のP4協定を米国が横取りしてTPPに変容させ、21世紀に発展するアジア太平洋との貿易を拡大する目的でPIVOT戦略も絡めてアジア太平洋諸国の12カ国と交渉を開始したものである。従いTPPは究極的に米国の国益と米多国籍企業の企業益追求がその背景にあることを充分留意することが肝心だ。

TPPとTTIP~欧米の反対運動の現状

先日、都内のホテルで開催されたジャパン・ハンドラーたちが結集するCSIS(米国戦略国際問題研究所)の日米セミナーに参加した。米国側の出席者がTPP締結の必要性を強調し、

TPP締結は米国、日本のアジア太平洋での中国への軍事的対決の意味もあると発表した。

米国はTPPを経済的にも軍事的安全保障面でも中国に対峙する為にも日米が主導して早期締結の必要性を訴えていた。米国はTPPを経済と安全保障の観点からも重視していることを強調した。しかし自由貿易協定を軍事とからめて交渉することには違和感を覚えた。日本としては十分留意してかかることが肝要だろう。一方、6月19日東京で開催の国際シンポジウム「TPP,TTIPなどが脅かす民主主義・環境・暮らし」に参加した。

講師の一人、上田雄彦・横浜市立大学教授によれば:

*0.14%の金持ちが、世界の金融資産の81.3%を所持。

*上位20位までの金融市場のプロが毎年120億ドル(一人当たり660億円の年収を取得。

*もっとも富裕な層62人が、世界の36億人分の富を所有。

*世界資産の25%が300の多国籍企業で占められている。

*これら企業の売り上げは世界貿易の3分の2、世界GDPの3分の1を占めている。

*世界貿易のおよそ60%は多国籍企業の内部で生み出されている。

*多国籍企業は世界の隅々から余すことなく富を得ている。

との研究成果の発表があり、多国籍企業の独占に驚いた。このような多国籍企業は利益の課税逃れのために先日発表された「パナマ文書」で指摘のタックスハブンに利益を移転させており、二重の意味で、国家経済に悪影響をおよぼしていることを留意する必要がある。

米国から参加のパブリック・シチズン グローバル貿易ワオッチのメリンダ・セントルイス氏は米国では党派を超えてTPPに反対しており、大統領候補のクリントン、トランプ、サンダース氏もTPP再交渉などを掲げていると説明があった。

米国での党派を超えた反対の理由は ①TPPの秘密性と企業の影響力 ②ISDSなどで新たに拡大される企業の権利 ③TPPは食の安全、医薬品へのアクセス問題、環境・気候、金融規制、人権などを脅かす ④TPPと似た過去の貿易協定は破滅的な結果を齎している ⑤公式調査によるとTPPはなんの経済的利益をもたらさないと強調した。

TPPは歴史上も最も秘密性の高い貿易交渉で7年間の秘密裏の交渉、米国の500以上の多国籍企業のアドバイザーが条文案への影響力を持っている。参加国はTPPが発効してからも4年間は交渉中の条文は公開しないという覚書を結び、国民の目から真実を隠ぺいしている。しかもTPPには失効の日時が記載なく、12カ国の合意なしでは言葉一つ変えられない条約だ。投資家対国家紛争解決(ISDS)は世界銀行傘下の機関が担当し、無制限の保証を求めることができる。TPPが発効すれば6450社の米国企業子会社が日本政府の政策に対してもISDS攻撃を仕掛けられる。さらに医薬品、GMO(遺伝子組み換え作物)、食の安全、金融規制緩和、環境への悪影響などもある。下院議員、上院議員の3分の一が11月改選を迎える。新大統領の移行期間も含めて、TPPの議会承認は非常に困難視されている。さらに米国では1500の団体がTPPへの反対を表明する書簡を2016年1月に議会に送付している。一方、450の環境団体も2016年6月にTPP反対の書簡を送付。さらに米国の有名な経済学者のステイグリッツ教授、クルーグマン教授、ロバートライシュ、サマーズ教授などがTPPは経済的利益は少なく、むしろ多くのリスクがあるとしてTPPに反対している。

先に鳴り物入りで喧伝されたNAFTA(北米自由貿易協定)、韓国・米国のFTAもはかばかしい効果がなく、米国には恩恵がないとの研究報告もある。(メリンダ・セントルイス氏)

日本のメデイアでは米国でのこのような反対意見は報道されず、アベノミクスの目玉としてTPP協定の早期承認が必要との言説が喧伝されているのは問題だ。

ベルギーから参加のCorporate Europe Observatoryのローラ・ブルージュ氏は米国・EUの環大西洋貿易・投資パートナ‐シップ協定(TTIP)について:

①透明性の欠如、②ISDSは民主主義への脅威、③環境保護への脅威、④公共サービスの民営化の問題点、⑤TTIP交渉の秘密主義などからTTIPを汚い協定だと指摘した。

特にTTIPと食の安全に関して肉のホルモン剤、遺伝子組み換え作物、殺虫剤の増加、塩素処理された鶏などが人間の健康と安全に悪影響を与えるとして問題視している。

EU本部のあるベルギーでは環境団体、農民、労働組合、健康保険団体などが多国籍企業の利益を追求するものとしてTTIPに反対運動を展開している。

このようにTPPのみでなくTTIPも米国、ヨーロッパで国民の反対運動が起こっておることに留意する必要がある。

結論~日本のTPP反対運動~正しい、信頼できる情報の収集と分析、活用を

日本では「TPP交渉から即時撤退を要求する学者1000人の会」(会長・醍醐東大名誉教授)などがTPPに反対していたが、最近活動している様子も見えず、同会の一員でもある筆者にとっては誠に残念である。

最近出版された植草一秀・伊藤 真氏は著著『泥沼ニッポンの再生』(ビジネス社)で「TPPへの加入は主権の喪失を意味する」と警告を発し、

*独立国家としての主権が失われることになるTPP締結

*日本の司法権を毀損するISDS条項

*日本の司法が危機的状況に瀕していることを知らない司法関係者

*ISDSの受け入れは自国が未成熟な国であることを宣言するようなもの

*農業分野の関税で聖域として守られた品目はゼロ

*国家の存続に関わる食料安全保障を脅かすTPP

*日本市場への参入を積極化させるアメリカの医薬品、医療機器メーカー

*日本がひざまづかされる相手はアメリカでなくグローバル多国籍企業

*TPP脱退は不可能なのか

などTPPの問題点を端的に指摘している。

近刊の山田 優・石井勇人著『亡国の密約』(新潮社)~TPPはなぜ歪められたのか~

は労作である。ここではTPPで日本が譲歩を繰り返した背景に、コメを「聖域」として米国との間に過去に結ばれた密約があったことを暴いている。この書ではGATT時代の通商交渉時代から交渉を追跡しているジャーナリストが日米密約の事実を暴いている。

日米間にコメ輸入をめぐる”密約“が存在する。その実態が明らかになれば貿易の自由を脅かす明白な違反行為として日本は国際的な非難にさらされかねない。この密約にTPPを含めた日米交渉の本質が隠されていると実態を暴いている。

今回のTPP合意の背景には農水省を差し置いて「日本版NSCの米国寄りの谷内事務局長と外務省が主導し、日本ハンドラー、日本ロビーのCSIS(米戦略国際問題研究所)の策動でTPPが政治化された」経緯が詳しく記述されている。

「TPP-日米再激突という虚構」「米国の提案を丸呑みした落日の日本」「蚊帳の外に置かれた農水省と農林族」「一錠8万円のハーボニーなどで崩壊する国民皆保険」「AIIBの衝撃が引き金になった」「骨抜きにされたTPP」などTPP交渉の内幕がウルガイラウンド・コメ交渉などを通じて歴史的に詳しく説明されている。一読の価値がある著書だ。

一方、『泥沼日本の再生』の共著者・弁護士の伊藤 真氏は「TPPに関して国民も国会も情報を知らされず、情報もなしにTPPという条約が承認されようとしている。これは主権者国民の意思とは言えない。それは明らかに憲法61条、73条2項違反になる。日本政府がTPPを承認すれば国民の主権が失われるのみならず、独立国家としての主権も失われてしまうことになる」「ISDS条項で日本の裁判所は何も手を出せない」「TPPを推進しているのはグローバルな強欲巨大資本だ。結局はグローバルに支配を進めようとしている巨大資本が、日本市場を完全な支配下に置くためにTPPが必要なのだ」「農業、食の安全・安心、医療、金融の問題などいったんTPPに入ってしまうと足抜けできなくなる」とTPPについては安倍政権のバラ色の喧伝に惑わされずに日本国民として真剣にTPPの得失を慎重に検討することがわれわれ国民の義務、責務である。

そのためには情報が操作されていないか、情報の出どころはどこかなど情報の精査を行い、情報を量のみでなく質的な面からも十分検討し、国内外の正しい情報の把握に努め、正確な情報の収集、的確な分析により、正しい判断をすることが何よりも大切であることを強調したい。

AIIB年次総会開催

「AIIB年次総会開催」

2016年7月22日 中川十郎

 

去る6月25~26日、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の年次総会が57か国のメンバー国を

集めて北京で開催された。総会では初のAIIB融資が決定した。今年の融資目標の12億ドル(1200億円)のうち、4件への融資が決定した。

新たに加入を希望する東欧、ラテンアメリカ、アフリカなどの24カ国は2017年早々には加盟を認められる見込みである。そうなるとADB(アジア開発銀行)の67カ国を凌駕する

メンバー81か国の有力国際投資銀行がアジアに誕生することになる。ADB試算によれば2010~20年にアジアではインフラ需要が8兆ドル(800兆円)に上るが、融資可能な資金は世銀を入れても数パ-セントで、これらの膨大な資金需要には応えられないと見られている。その埋め合わせをAIIBが行うことが強く期待されている。

今回、話題になったのは世界から10人をAIIB顧問として招聘するが、その中に日本から鳩山由紀夫元首相の名前が挙がっていることだ。鳩山元首相は東アジア共同体研究所理事長として東アジ共同体構築について精力的に活動しておられ理想的な人選だと思われる。

AIIBの融資目標は16年12億ドル、17年25億ドル、18年35億ドルの予定だ。本年の融資額12億ドルの内、まず5.09億ドルを下記4プロジェクトへの融資を決定した。

①バングラデシュの地方電力拡大計画にAIIB独自の融資で1.65億ドル

②パキスタン・パンジャブ州の40マイルのハイウエー建設にADBと英国国際開発省との協調融資で1億ドル

③タジキスタンの首都ドウシャンベに通じる3マイルの道路混雑解消のための道路建設に欧州復興開発銀行(EBRD)との協調融資で2750万ドル

④インドネシア全国のスラム街の改善に世界銀行との協調融資で2.165億ドル

今回の上記4プロジェクトは政府関係プロジェクトへの融資に集中している。民間部門への融資は皆無で融資リスク管理を徹底していることがうかがえる。バングラデシュへの融資はAIIB単独であるが、他3件はアジア開銀(ADB)、欧州復興開発銀行(EBRD,世界銀行、英国国際開発省など国際金融機関との協調融資で慎重な対応をしている。

現在、総裁のほかに5名の副総裁。39名の行員と20人のコンサルタントで運用している。だが年末には100名体制に増員。さらに世界から有力なリーダー10名を顧問に委嘱する予定で着々と組織を固めつつある。バングラデシュは西アジアで急速に発展しつつあり、パキスタンは海のシルクロードへの出口、インドネシアは海のシルクロードの重要拠点。タジキスタンは陸のシルクロードの主要な結節点である。第一段階の融資案件としては戦略的な配慮をしていることがうかがえる。また財政的に健全、かつ環境面での配慮でフレンドりーで地域住民に受け入れられるプロジェクトを慎重に選定している。

米国と日本は環境保護、人権、反腐敗対策、透明性を問題視し、ブレトンウッズ協定の開発体制に挑戦するものだとして、AIIB不参加の口実にしているが、日本のこのような対応は時代に逆行しており、悔いを千載に残すことになるだろう。