BIS論壇No.191

「第4次産業革命インダストリ4.0」

2016年8月1日中川十郎

7月21日東京商工会議所・情報通信部会主催で「第4次産業革命~IOTとAI~インダストリー4.0とインダストリアル・インターネット」と題し、三菱UFJリサーチ&コンサルテイングのコンサルテイング・国際事業本部の尾木蔵人氏の講演会があった。第4次産業革命時代を先導するドイツと米国、中国の戦略が詳しく説明されきわめて有益であった。

参考まで、尾木氏の近著『インダストリー4.0 第4次産業革命の全貌』~最先端の人工知能やIOTがビジネスを激変させる~も参考にしつつ21世紀の情報革命たる第4次産業革命を検証する。この戦略はドイツ製造業を取り巻く環境変化に備え、ICT, インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューテイングを活用し、IOT(Internet of Things-物のインターネット化)へのシフトの時代に製造業分野でICT, IOTを活用し、パラダイムシフトを主導し、人工知能(AI)を活用、世界的な競争優位を確立しようとするものである。

18世紀末の英国での水力、蒸気機関を活用した第1次産業革命、20世紀初頭の大量生産と分業による第2次産業革命、1970年代初めのエレクトロニックス、IT技術活用、特に産業用ロボットの活用による自動化の促進による第3次産業革命を経てCPS(サイバー・フィジカル・システム)の活用による第4次産業革命を狙い、製造業、輸出を主導するドイツ政府が2011年11月に「High Tech Strategy 2020」行動計画の中で「Industry 4.0」を採用。2013年4月にAca Tech ドイツ工業化学アカデミー、シーメンス、ボッシュ、ダイムラー、BMW, SAPなどが参加し、「Industry 4.0実現に向けた提言書」を発表。ABB,ヒューレットパッカードなどの多国籍企業を含む在ドイツ企業がSteering Committeeメンバーとなり、各分野への対応、研究を実施。2014年4月「Industry 4.0プラットフォーム」が白書を発表し、本格的な活動が始まった。

インダストリー4.0でIOT(モノのインターネット)、IOS(サービスのインターネット)を活用してスマートビルデイング、ロジステイックス、カー、グリッドなどに拡大する。工場全体の現場データーをセンサーなどを活用して「デジタルデータ」としてCiber(IT)上に蓄積して、ITと製造技術の融合により設計、生産計画、生産、物流(部品調達、供給など)の迅速化を実現して、グローバルな競争優位を獲得しようとする戦略である。

これに対抗して米国は「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム」(IIC)を2014年3月に発足。GE,IBM,INTEL.CISCO Systems, ATT&T,など240団体も加盟し第4次産業革命での主導権をドイツと争っている。

製造大国の中国も2015年5月中国製造業10か年計画の「中国製造2025」を発表。次世代情報技術、高度なデジタル制御の工作機械、ロボット産業に全力を挙げる戦略で、2015年6月ドイツとインダストリー4.0で協力することで合意。ドイツの先端製造技術と世界最大の製造国家・中国が提携すればグローバル製造大国としてこの2カ国が世界の製造を抑えるものと思われる。これに対してわが日本は大きく出遅れており、その挽回のために官、学、財の起死回生の対応が求められている。

BIS論壇No.190

「AIIBと一帯一路戦略」

2016年7月31日 中川十郎

さる7月28日、日中関係学会7月度研究会が神田・学士会館であった。北京の対外経済貿易大学に1年間留学した元参議院勤務の杉本勝則氏が「中国を見誤らないための3か条」~体験的政治論と中国論~と題して興味ある発表をされた。中国を見る場合、日本の常識、思い込みで考えないこと。人口が日本の10倍、国土面積が25倍あることより、常に日本の10倍を念頭に置いて考えること。よい人が10倍いれば悪い人も10倍いる。日本で報道される中国のネガテイブ情報は一面では事実だが、それが本質的、構造的な問題なのか。中国の一部、一面にすぎないのかを考えることが必要不可欠だ。中国は一つの国でなく、先進国と途上国が併存していると考えれば国内矛盾の問題はない。など現地に生活し、勉強した経験からきわめて示唆に富んだ指摘に感銘を受けた。

同氏が現地を視察し、現場情報を基に考察した「一帯一路」についてもシルクロード経済ベルトの現実をしっかり見極めることが重要との指摘があり全く同感だ。新疆現地視察の結果、すでに2年前に工業団地、物流基地は完成している。ウルムチまでの新幹線は一昨年末に完成。高速道路もカザフスタンの国境まで完成。新幹線は3年後にカザフスタン国境まで完成とのことだ。完成済みの中国側インフラを西方諸国にどうつなぐかのインフラ整備が「一帯一路」と「AIIB」による融資だ。新疆には韓国人とイスラエル人が多く訪問している。東のウイングに加え、西のウイングも完成させることで、ユーラシア大陸の中心に君臨することが「現代の中国夢」であると喝破された。

立命館大学・周章生教授によるとシルク経済ベルト構想は1830年にGDPは世界の30%を占めるほどの大国であった中国が過去の栄光を取り戻すべく陸と海のシルクロードの復興、共栄、資源、市場、安全の確保を目指すものだ。「これらの地域の人口30億人のシルクロード経済ベルトの市場規模と潜在力はほかに類がない。太平洋からバルト海に至る基幹道路の整備や人民元と各国通貨の直接交換取り引きの拡大を目指し、地域大協力を形成する構想」であるとし、①ユーラシア各国の経済的結びつきを緊密化し②輸送路の連結の強化、③貿易の円滑化強化④通貨流通の強化、地域経済の国際競争力強化⑤人々の心のつながりと友好的往来の強化を目指すとしているとのことだ。(東アジア論壇第10号)

すでに2016年4月には中国からフランスのリヨンまで11300キロの鉄道貨物を16日で運搬する直行便が実現した。日本の日本通運も欧州~中国間の鉄道輸送サービスとトラック輸送を手掛けるという。(日経7月26日)。この様なユーラシア大物流網の整備、沿線国のインフラ整備が昨年設立されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)の融資も連動して始まった。シルクロード基金、SCO開発銀行に加え、7月20日にはBRICS開発銀行も始動。

出資5カ国それぞれの国の新エネルギー事業への9.1億ドル(約970億円)の融資も決定した。

アジアとヨーロッパを結ぶ画期的な21世紀の最大のユーラシアシルクロード計画が動き出しつつある。日本としても出遅れることなきようAIIBへの早急なる参加と、21世紀のユーラシア大物流プロジェクトへ今こそ速やかに参画し、東西の貿易拡大に協力すべき時だ。

BIS論壇No.189

 「2016年版通商白書」

2016年7月31日 中川 十郎

このほど通商白書が発表された。2015年版通商白書でも指摘されていたが、日本の輸出競争力は年ごとに低落傾向にある。逆にドイツ、中國などの輸出競争力が高まりつつある。これは米誌タイムズ・ハイヤー・エデユケ―ション(THE)が6月に発表した「アジア大学ランキング」で日本の大学が軒並み順位を下げ、東大が1位から7位に転落。逆にシンガポール国立大が1位、北京大学が2位、シンガポール南洋工科大学2位、香港大学4位、精華大学5位とアジアの大学が躍進。京都大学11位、(9位)東北大学23位(19位)、東京工業大学24位(15位)、大阪大学30位(18位)となったこととも一部関連しているのではないか。(かっこは2015年順位)

日本の輸出力低下は鮮明で、財務省発表の2016年1~6月の貿易統計速報(通関ベース)では輸出額は前年同期比8.7%減。09年後半以来6年半ぶりの大幅減となっている。

IMFの16年予測でも世界の成長率3.1%に比し、日本は16年 0.3%、17年0.1%と先進国では最低の低成長だ。米国は16年2.2%、ユーロ圏1.7%、英国1.7%、中國6.6%、インド7.4%に比し日本の低成長が際立っている。アベノミクスに問題ありと思われる。

我が国の名目GDPは1997年のピーク時より20兆円少なく、2008年のピーク時より7兆円減少している。これでは安倍内閣の目指している2020年のGDP600兆円には到達しそうもない。我が国の輸出は過去20年間で40兆円程度しか拡大していない。世界経済をけん引してきた中国経済は設備投資主導の経済成長の結果、過剰債務が発生。さらに過剰生産能力も問題となりつつある。これは鉄鋼、化学部門、液晶などで顕著だ。一方、資源国経済は世界的な景気減速やシェール革命などで資源価格が急落し、景気が減速している。

中国は投資主導から消費主導経済への構造改革や製造業の高度化が必要だ。最大の付加価値輸出国は日米独中心から中国へ比重が移りつつある。OECDの主要国が輸出拡大を通じて経済成長を図っているのに対し、我が国のGDPに対する輸出比率は低下しつつある。

世界の財の貿易拡大が鈍化するなか、サービス貿易は堅調に拡大。世界の旅行サービスは1.2兆ドル、コンサルテイングなど業務サービスも1.1兆ドルに拡大。我が国サービス貿易は欧米先進国やインドに比べて低水準にとどまっており問題だ。グローバルなIT人材活用においても我が国は遅れている。特にドイツの各州における製造業は我が国に比較して輸出比率が高く、海外市場獲得に注力。輸出拡大を続けているドイツは研究開発協力なども国際展開に官民ともに熱心だ。生産年齢人口の減少で、今後はアジア新興国からインド・アフリカなどへ発展の軸が移り、これらの地域でインフラ需要が拡大する。よって我が国企業の一層の海外展開が必要だ。2016年2月に署名したTPPは世界のGDPの4割、日本の輸出の3割を占める。日本は20か国と16の経済連携協定を署名、発効済み。さらにEUとのEPA,アジアとのRCEP、日中韓FTAなど包括的で高レベルの経済連携協定締結に向けてスピードを上げるべきだ。さらに2020年までに世界の100カ国を対象とする投資関連協定を締結すべきと結んでいる。しかしTPPを含めその実現は容易ではなく楽観は禁物だ。