BIS論壇No.189

 「2016年版通商白書」

2016年7月31日 中川 十郎

このほど通商白書が発表された。2015年版通商白書でも指摘されていたが、日本の輸出競争力は年ごとに低落傾向にある。逆にドイツ、中國などの輸出競争力が高まりつつある。これは米誌タイムズ・ハイヤー・エデユケ―ション(THE)が6月に発表した「アジア大学ランキング」で日本の大学が軒並み順位を下げ、東大が1位から7位に転落。逆にシンガポール国立大が1位、北京大学が2位、シンガポール南洋工科大学2位、香港大学4位、精華大学5位とアジアの大学が躍進。京都大学11位、(9位)東北大学23位(19位)、東京工業大学24位(15位)、大阪大学30位(18位)となったこととも一部関連しているのではないか。(かっこは2015年順位)

日本の輸出力低下は鮮明で、財務省発表の2016年1~6月の貿易統計速報(通関ベース)では輸出額は前年同期比8.7%減。09年後半以来6年半ぶりの大幅減となっている。

IMFの16年予測でも世界の成長率3.1%に比し、日本は16年 0.3%、17年0.1%と先進国では最低の低成長だ。米国は16年2.2%、ユーロ圏1.7%、英国1.7%、中國6.6%、インド7.4%に比し日本の低成長が際立っている。アベノミクスに問題ありと思われる。

我が国の名目GDPは1997年のピーク時より20兆円少なく、2008年のピーク時より7兆円減少している。これでは安倍内閣の目指している2020年のGDP600兆円には到達しそうもない。我が国の輸出は過去20年間で40兆円程度しか拡大していない。世界経済をけん引してきた中国経済は設備投資主導の経済成長の結果、過剰債務が発生。さらに過剰生産能力も問題となりつつある。これは鉄鋼、化学部門、液晶などで顕著だ。一方、資源国経済は世界的な景気減速やシェール革命などで資源価格が急落し、景気が減速している。

中国は投資主導から消費主導経済への構造改革や製造業の高度化が必要だ。最大の付加価値輸出国は日米独中心から中国へ比重が移りつつある。OECDの主要国が輸出拡大を通じて経済成長を図っているのに対し、我が国のGDPに対する輸出比率は低下しつつある。

世界の財の貿易拡大が鈍化するなか、サービス貿易は堅調に拡大。世界の旅行サービスは1.2兆ドル、コンサルテイングなど業務サービスも1.1兆ドルに拡大。我が国サービス貿易は欧米先進国やインドに比べて低水準にとどまっており問題だ。グローバルなIT人材活用においても我が国は遅れている。特にドイツの各州における製造業は我が国に比較して輸出比率が高く、海外市場獲得に注力。輸出拡大を続けているドイツは研究開発協力なども国際展開に官民ともに熱心だ。生産年齢人口の減少で、今後はアジア新興国からインド・アフリカなどへ発展の軸が移り、これらの地域でインフラ需要が拡大する。よって我が国企業の一層の海外展開が必要だ。2016年2月に署名したTPPは世界のGDPの4割、日本の輸出の3割を占める。日本は20か国と16の経済連携協定を署名、発効済み。さらにEUとのEPA,アジアとのRCEP、日中韓FTAなど包括的で高レベルの経済連携協定締結に向けてスピードを上げるべきだ。さらに2020年までに世界の100カ国を対象とする投資関連協定を締結すべきと結んでいる。しかしTPPを含めその実現は容易ではなく楽観は禁物だ。