BIS論壇No.197

 「代替医療問題」

2016年9月8日 中川 十郎

9月3日、慶応大学・医学部講堂で、国家ビジョン研究会主催で「人生のセカンドステージ~命の本質を全うするために~」と題して有意義な健康・医療研究会が行われた。同ビジョン研究会の医療・看護・介護分科会会長はBIS協会名誉会長の広瀬輝夫・元ニューヨーク医科大学教授でもあるところより参加した。

第一部は石飛幸三・世田谷区立特別養護老人ホーム蘆花ホーム医師が基調講演『平穏死のすすめ』で、無理な延命治療ではなく、自然の摂理に抗うことなく、自然で平穏な最期を迎えることの大切さを強調された。人間らしく人生の終わりを迎え、「命の本質を全うする」ことを願うとの話に感銘を受けた。

第二部はがんの夫を自宅で家族一緒に介護し、延命治療を受けることなく自然死を従容と受け入れられた長谷川ひろ子氏が、介護の一部始終を撮影し、映画にまとめられた『いきたい』の上映で、参加者に多大の感動と感銘を与えた。

日本では他国の2倍~4倍以上の80%が病院で死亡している。スエ―デンでは病院での死亡は20%で、80%が自宅だとのことだ。日本では病院での死亡が圧倒的に高いことを痛感した。自宅でがんの夫を看病し、自宅で最期をみとった家族の生き様は、今後の日本での介護、看病のあり方や、家族一同にみとられ、人生最期を自宅で全うする介護のあり方は会議参加者に多大の感銘を与えた。

第三部はパネルデイスカションで、佐野 潔・米国野口医学研究所理事長が「ヒューマニテイ医療と欧米の老人医療・介護」で、病院でなく在宅医療で、いやし、思いやり、共感、こころの交流をすることが大切だと強調された。

国際全人医療研究所理事長の永田勝太郎氏は「全人的医療、納得のゆく死にざまとは」と題して講演された。人間を理解するためには身体、心理、社会、実存(生きがい)が大切だ。全人的医療で現代医学の限界を超え、東洋医学、心身医学を統合させることが大切だと強調された。日本在宅ケアアライアンス共同事務局長の太田秀樹氏は65歳以上の高齢者が26%を超えた日本の現状下、地域の絆を太くして、医療・介護・福祉・保健(予防)・住まいを盛り込み、独居でも住み慣れた町で尊厳を持って暮し、安らかに旅立つべきだと力説された。生命科学振興会理事長の渡辺 昌先生は健康長寿に「山・田・星」モデルを提唱。玄米菜食を強く推薦。日本人は尊厳死やQOL(生活の質)を考えるべきと強調された。

世界最高速で高齢化が進行している日本人の生き方死に方について熟考すべきと痛感した。

前山和宏・医師は最近、注目を集めている著書『末期がん逆転の治療法』(幻冬舎刊)で、がんの早期回復のカギを握るのは手術でも薬でも放射線でもない。“代替医療”が重要だと力説。高齢者を薬漬けにしている日本の医療・医薬業界・厚生省のあり方を大いに批判しておられる。高齢化社会の日本の医療の在り方は大いに問題があり、再考が必要だ。

BIS論壇No.195

 「情報社会の未来」

2016年9月5日 中川 十郎

この夏に読了した情報関係の本の中で特に下記の3冊が興味深いものであった。参考までに読後感をお届けしたい。

史上最大の企業合併を成し遂げたというAOL創設者ステイーブ・ケースの未来ビジネスへの提言書で世界経済を変える「第3の波」が来るという『サードウエ―ブ』(ハーパーコリンズ刊)、ヒラリー・クリントンの元参謀として世界80万キロを行脚した未来学者のアレックス・ロスはロボット、暗号通貨、ゲノム、コード、データー、未来市場などを予測。

今後「中流層」や「国境」が20年以内に変貌する。世界72億人のパラダイムシフトが始まると予測する『未来化する社会』(ハーパーコリンズ刊)。これに対し、玉木俊明・京都産業大経済学部教授の『「情報」帝国の興亡』~ソフトパワーの500年史~(講談社現代新書)は17世紀オランダの活版印刷、19世紀イギリスの電信、20世紀アメリカの電話、そしてポスト・アメリカのインターネットが世界政治経済に与える影響を論じ、「情報を制する国家が覇権を獲得する」と近代世界システムの誕生から終焉までを詳述している労作だ。『サードウエーブ』はかって私がニューデリ駐在中、ボンベイ出張の折、インド航空機上で隣席のニューデリのハンガリー大使館勤務という女性外交官が熱読していた本が未来学者アルビン・トフラーが情報化社会到来を予言する著書“The Third Wave”で、私も早速購入し、情報の重要性を認識した本だ。著者のステイーブ・ケースは大学4年の時にこの名著に感銘を受け、情報時代の覇者AOLを創設。タイム・ワーナー社と史上最大の企業合併を成し遂げた。彼はIoT(モノの情報化)、IoS(サービスの情報化)、IoE(すべての情報化)が進むと予言している。インターネット時代の3つの波の到来を予告。第一の波(1985~1999)はインターネットの黎明期でオンラインの世界の土台の構築期。第2の波(2000年~2015年)はアプリ経済とモバイル革命期で、検索エンジン、SNS、eコマースのスタートアップの全盛期で、ドットコム・バブルが膨らみ、10億人のユーザーを引き付けた。アップルのi-Phone,グーグルのアンドロイドのモバイル化が急激に進展した時代に区分。第3の波(2016年~)はあらゆるモノのインターネット時代。あらゆるモノ、ヒト、場所が接続可能となり、開発されたアプリが急速に広まり、従来の基幹産業を変革していく時代の3期に分けている。このような情報化の波に乗りAOLを創設した著者が史上最大の企業合併といわれるタイムワーナーを吸収。最期に失敗したケースを詳述している。

これに対し、『未来化する社会』のアレックス・ロスは情報化時代の未来予測として「ロボット」、「ゲノム」、「通貨・市場・信用のコード化」、「コード戦争時代」、「情報化時代の原材料~データ」、「未来市場の地政」を論述。情報化、知識産業時代に最も重要な資産は「人」で人の能力をどう伸ばすかに未来がかかっていると教育、文化の重要性を強調している。玉木俊明教授の『情報帝国の興亡』は情報論的に17世紀のオランダの印刷術、特に19世紀の英国の電信がパックスブリタニカを築き上げた基盤、原動力となったこと。それに比し、米国の国防総省のARPAから派生したインターネットは分散型で米国にそれほどの競争優位を齎していないと論じている。ぜひ上記3名著を紐解いていただきたいものだ。

BIS論壇N0.194

「アフリカ開発会議TICAD 6」

2016年8月31日 中川十郎

8月27~28日、ケニヤ・ナイロビで開催された『第6回アフリカ開発会議』は初のアフリカでの開催ということで注目を集めた。

筆者は2003年、2008年、2013年に横浜で開かれたTICAD会議に参加した関係でナイロビ会議にも関心を持ちWATCHした。2002~2003年、コロンビア大学に留学。ビジネススクール日本経済経営研究所客員研究員として大学の興味ある講義を聴講した。1999年にノーベル経済学賞を受賞したロバートマンデル教授、2001年授賞のステイグリッツ教授などの人気ある講義を聴講する得難い機会を得た。ロバート・マンデル教授とはそのあと、お互いにオリンパスの特別委員として4年間一緒に仕事をするご縁があり、国際金融や経済について意見交換する貴重な機会に恵まれた。

コロンビア大学では国連事務総長顧問として活躍し、開発経済の権威でアフリカ研究でも著名なジェフリー・サックス教授の講義も大教室がいっぱいになるほどの人気講座であった。そのサックス教授が2003年の横浜でのアフリカ開発会議で講演するというので参加した。これが、筆者がTICADに興味を持ち始めた動機である。

アフリカは現在の人口10億人が35年後の2050年には25億人から30億人に増加するとのことだ。鉱物資源も豊富で地球上に残された「最後の巨大市場」として脚光を浴びている。日本人駐在8000人に対して中国人は1000社、100万人が在住。中国の存在感が抜きん出ている。ヒラリー・クリントンの元参謀として世界80万キロを行脚した未来学者アレックス・ロスは近著『未来化する社会』でグローバル化とイノベーションの波に乗った中国とインドが成功したように、爆発的に増える人口と強力な才能基盤を持つアフリカ諸国は未来の産業を足掛かりに一気に発展するかも知れない。アフリカ大陸では携帯電話の契約数が6億5000万台を超え、ヨーロッパやアメリカよりも多い。アフリカは産業化時代の経済をそっくり飛ばし、農業経済から知識ベースの経済へ一気に移ろうとしていると、アフリカの経済発展に楽観的な見方をしている。(上掲書353・356ページ)

ナイロビでは安倍首相立ち会いの下、22の企業・団体がインフラ整備など73件の覚書に調印。参加したアフリカ54カ国首脳がナイロビ宣言でアフリカの経済成長を後押しするために、経済の多角化・産業化、人材育成、保健システム強化などを打ち出した。

安倍首相は今後3年間で官民で総額3兆円(300億ドル)規模を投じる方針を表明。日本が支援するアフリカは産業化した強靭なアフリカだ。さらに発展し大きく変貌することを確信すると発言。1000万人の人材教育計画を発表。アフリカを世界経済の重要なプレイヤーと位置づけて、アフリカで先行する中國への対抗意識をあらわにした。

しかしアフリカ向け投資残高では米国、英国、フランス、中国の600億ドル~400億ドル台に対し日本は100億ドル程度で見劣りする。アフリカでは中国、インドなどが先行している。AIIB, 一帯一路戦略、アフリカなどで中国と張り合うのでなくWin-Win関係で、アジア、中央アジア、アフリカ進出で中国と協力する方策を考究することが肝要ではないか。

BIS論壇No.193

 「TICAD 6」,「G20」,「ASEAN 首脳会議」と「TPP」

             2016年8月28日

中川 十郎

秋の風情が感じられる今日この頃、国際政治経済分野では国際的な動きが活発化している。本年前半は6月の英国のEU離脱問題が大きな話題を呼んだ。また2011年の東日本大震災に続き、2016年3月以降の熊本地震頻発も西日本に地殻変動を引き起こしつつある。

激変の年といわれる申年の2016年後半は8月27~28日アフリカ・ケニアの首都ナイロビで開催される日本政府主導のTICAD6,(第六回アフリカ開発会議)にアフリカ54カ国の首脳に国連、世銀も参加。安倍首相には77の企業・大学が同行。約70件の覚書に調印するという。9月4~5日にはウラジオストックで「東方経済フォーラム」が開催され安倍・プーチン大統領の会談も予定されている。今後の日ロ関係強化策が話し合われる見込みだ。

さらに9月中にラオスで東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議も開かれる。2015年末に域内6億人、GDP2.5兆ドルのアセアン経済共同体(AEC)が発足。東南アジア10カ国の経済共同体が活動を開始。アジア経済開発の核として発展が予想されている。

5月のG7伊勢志摩サミットに続き、9月の国際会議で特に重要なのは9月初めに中国・杭州で開催されるG20サミット会議だ。この会議には東南アジア諸国連合(ASEAN)に加え、アフリカ連合(AU)の議長国など25カ国が参加。G7, 経済協力開発機構(OECD)も含め、保護主義の回避、金融規制改革、各国での格差問題への対応策。東シナ海問題。昨今話題となっている「パナマ文書」が暴露した租税回避問題など広範な討議が行なわれることを期待したい。2016年1月に発効したIMF増資による出資比率は米国の17.5%、日本の6.46%に次ぎ中国が6.39%で第3位となった。ドイツ、英国、フランス、イタリアに次いでインドが2・75%で8位、ロシア2.71%で9位、ブラジルが2.32%で10位となり、BRICSなど新興国が今後の世界金融分野でも発言力を高めるとみられる。

TPPについては日本政府が9月の臨時国会で数の力で国会承認を得ようと動いている。だが米国大統領候補の民主党ヒラリー・クリントン、共和党候補のドナルド・トランプともにTPPには反対で、再交渉も視野に入れている。民主党サンダース議員もTPP反対を表明。8月25日には米上院共和党院内総務・マコネル上院議員が「現在のTPP合意には深刻な問題点があり、今年これに関して行動することはない。次期政権で変更が加わる可能性がある」と発言。日本政府としては米国の動向から、TPP国会承認は拙速を戒め、他の協定参加国の動静も見極めて、慎重に行動することが求められる。この意味で最近出版され、話題を呼んでいる山田 優・石井勇人著『亡国の密約』(新潮社)、鈴木宣弘著『悪夢の食卓』(Kadokawa)、山田正彦著『アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった』(CYZO)の味読を勧めたい。これに対し日経経済教室はジョルゲンソン・ハーバード大教授、伊藤元重・学習院大教授、石川城太・一橋大教授のTPP賛成論学者の言説(8月23~25日)を喧伝。新任の世耕・経産相はTPP早期承認に全力を挙げると発言している。(日経8月5日)。上記TPP反対3著作と合わせ読んで、どちらが正しいか考究願いたいものだ。