BIS論壇No.195

 「情報社会の未来」

2016年9月5日 中川 十郎

この夏に読了した情報関係の本の中で特に下記の3冊が興味深いものであった。参考までに読後感をお届けしたい。

史上最大の企業合併を成し遂げたというAOL創設者ステイーブ・ケースの未来ビジネスへの提言書で世界経済を変える「第3の波」が来るという『サードウエ―ブ』(ハーパーコリンズ刊)、ヒラリー・クリントンの元参謀として世界80万キロを行脚した未来学者のアレックス・ロスはロボット、暗号通貨、ゲノム、コード、データー、未来市場などを予測。

今後「中流層」や「国境」が20年以内に変貌する。世界72億人のパラダイムシフトが始まると予測する『未来化する社会』(ハーパーコリンズ刊)。これに対し、玉木俊明・京都産業大経済学部教授の『「情報」帝国の興亡』~ソフトパワーの500年史~(講談社現代新書)は17世紀オランダの活版印刷、19世紀イギリスの電信、20世紀アメリカの電話、そしてポスト・アメリカのインターネットが世界政治経済に与える影響を論じ、「情報を制する国家が覇権を獲得する」と近代世界システムの誕生から終焉までを詳述している労作だ。『サードウエーブ』はかって私がニューデリ駐在中、ボンベイ出張の折、インド航空機上で隣席のニューデリのハンガリー大使館勤務という女性外交官が熱読していた本が未来学者アルビン・トフラーが情報化社会到来を予言する著書“The Third Wave”で、私も早速購入し、情報の重要性を認識した本だ。著者のステイーブ・ケースは大学4年の時にこの名著に感銘を受け、情報時代の覇者AOLを創設。タイム・ワーナー社と史上最大の企業合併を成し遂げた。彼はIoT(モノの情報化)、IoS(サービスの情報化)、IoE(すべての情報化)が進むと予言している。インターネット時代の3つの波の到来を予告。第一の波(1985~1999)はインターネットの黎明期でオンラインの世界の土台の構築期。第2の波(2000年~2015年)はアプリ経済とモバイル革命期で、検索エンジン、SNS、eコマースのスタートアップの全盛期で、ドットコム・バブルが膨らみ、10億人のユーザーを引き付けた。アップルのi-Phone,グーグルのアンドロイドのモバイル化が急激に進展した時代に区分。第3の波(2016年~)はあらゆるモノのインターネット時代。あらゆるモノ、ヒト、場所が接続可能となり、開発されたアプリが急速に広まり、従来の基幹産業を変革していく時代の3期に分けている。このような情報化の波に乗りAOLを創設した著者が史上最大の企業合併といわれるタイムワーナーを吸収。最期に失敗したケースを詳述している。

これに対し、『未来化する社会』のアレックス・ロスは情報化時代の未来予測として「ロボット」、「ゲノム」、「通貨・市場・信用のコード化」、「コード戦争時代」、「情報化時代の原材料~データ」、「未来市場の地政」を論述。情報化、知識産業時代に最も重要な資産は「人」で人の能力をどう伸ばすかに未来がかかっていると教育、文化の重要性を強調している。玉木俊明教授の『情報帝国の興亡』は情報論的に17世紀のオランダの印刷術、特に19世紀の英国の電信がパックスブリタニカを築き上げた基盤、原動力となったこと。それに比し、米国の国防総省のARPAから派生したインターネットは分散型で米国にそれほどの競争優位を齎していないと論じている。ぜひ上記3名著を紐解いていただきたいものだ。