BIS論壇No.205

「TPPの現状と日本の対応策について」

1月27日 中川十郎

1月20日、就任前から何かと話題を振りまいていたドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任した。選挙期間中からTPPからの離脱を唱えていたトランプ氏は就任3日目の1月23日に早速、環太平洋経済連携協定(TPP)から[永久に離脱する]とした大統領令に署名した。安倍政権が過去3年鳴り物入りで「アベノミクス」の目玉として全力投球してきたTPPはこれで水泡に帰すことになった。

かかる状況にも関わらず、安倍政権は2月10日ごろに実現するとみられる日米首脳会談で、あいも変わらずTPPの多国間自由貿易の重要性を訴えると、いまだに言い訳じみた国会答弁に終始しているのは聞いていて納得いたしかねる。そもそも大統領候補のサンダース氏、ヒラリークリントン氏に加え、トランプ氏は昨年の選挙運動中からNAFTAの再交渉やTPPからの離脱を唱えていた。だから米国のTPP離脱に備え、安倍政権としてはTPPにかわり、日中韓FTA, ASEAN+3, 東アジア包括的経済連携協定(RCEP)などへの対応をAlternative策として検討しておくべきだった。それなのにTPPに固執、米国の動きを無視し、国会でTPP承認を急いだ。さらにトランプ大統領就任式の1月20日にぶっつけてTPP事務局担当のニュージーランドに日本の国会承認を通告した。このようなやり方は米国の実情を無視した愚策だ。日本外交、通商政策の無能ぶりを如実に示している。

情報論的に見て、TPP12カ国GDPの60%を占める最大加盟国米国がTPPから離脱することはTPPそれ自体が崩壊することを意味する。にも関わらず日本政府は米国のTPPからの離脱に対する何らの事前の対応策も施さず、ひたすら瓦解するTPPへの対応を手をこまぬいて無為無策に過ごした。今日の事態を招いたのは安倍政権の大きな失策だ。リスク管理の失敗だ。なのに、安倍首相はいまだに日本は自由貿易の旗手などとうぬぼれ、トランプ大統領にTPP脱退を思いとどまらせると豪語している。トランプ大統領がTPPからの離脱を大統領令で宣言した以上、安倍首相のTPP残留要請を受けるわけがないことは自明だ。

そもそも安倍政権はTPPを12カ国の経済連携だけでなく、中国包囲作戦に利用しようとしていた。経済連携を政治的な思惑に援用することは問題だ。今後、日本政府としては日本の国益を第一にアジアの一員として、まず日中韓FTA, ASEAN+3、ASEAN+6のRCEP連携交渉に邁進し、アジアでの経済連携実現に注力することが必要である。

幸い2月27日~3月3日、神戸のポートアイランドでRCEP16カ国の交渉担当官会議が開催される。日本としてはTPP瓦解への対応策として、アジアの大国、中國、インドも参加しているRCEP実現に全力投球することこそ肝要だ。RCEPに加え、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への加入、アジア、中央アジア、ユーラシア、中東、アフリカ、ヨーロッパへの物流を陸と海から支援する壮大なグローバル・ロジステイック戦略「一帯一路」への積極的な参加。インド、パキスタン加入により中央アジアで人口30億人の巨大経済機構に発展しつつある上海協力機構(SCO)との協力強化が強く求められる。今こそ日本はアジア・ユーラシアを俯瞰する新たな日本独自の外交通商戦略を確立すべき好機である。