BIS論壇No.211

「TPPとRCEPの最近の動向」2017年4月1日 中川十郎
3月24日、筆者も評議員を仰せつかっている「東アジア共同体評議会」第75回政策本会議が国際フォーラムで開催され参加した。講師は中川淳司・東大教授で「東アジアにおける経済統合の現状と見通し」と題し、これまでの長年のTPP研究をもとに豊富な資料・統計を活用し、理論も交えた学者的な発表であった。しかし、TPP賛成論を長年唱えられてきた同教授の見解は 1)TPPは21世紀の地域貿易協定のモデル。2)TPPはFTAAPにむけて交渉が終わった唯一のFTAで韓国、タイ、インドネシア、フィリッピン、コロン
ビアなども加入希望を表明している。3)TPPは中国牽制カードとして意義がある。
4)広域FTA.交渉を促すドミノ効果がある。5)TPP離脱は米国にマイナスを齎す。
6)日本の取るべき対応はTPPに調印した11カ国で米国に圧力をかけ、日米FTA交渉などを通じ、米国のTPPへの復帰を「鳴くまで待とう」の方針で努力すべきだとの結論であった。また日中韓FTAは2013年以来4年にわたり交渉が継続しているが基本的な関税下げのモダリテイについての合意にも至っておらず難航している。
日EUFTAは論点は絞り込まれており、本年中の妥結を目指すがどうか。2013年以来交渉中のRCEPは日本の東アジア供給網の多くをカバーし重要で既存のASEAN+1FTAより改善してはいるが、より広く、深い約束がなされることが原則だ。だがインドの扱いが困難でインドを排除し交渉を促進すべしとの見解を表明された。
同教授は2017年1月17日付け日経経済教室の『TPP漂流が問う通商政策』で「米の批准ねばり強く説得を」と唱え、「TPP不参加で米国は大きな不利益を被る」「RCEPやEUとのEPAの妥結を急げ」「米国抜きの11カ国での発効は容易でない」「日米二国間交渉成果は期待薄」と述べ、あくまでも米国がTPPに回帰するように日本が説得すべきだと強調された。理由の一つは米国がTPP域内のGDP60.4%を占め、日本の17.7%をあわせると78%を日米二国で占める。日本がTPPに参画すると日本のGDPは2・6%押し上げられると楽観的評価をしておられるのは問題ではないか。
米国の2032年時点の推計ではTPPにより米国のGDPは0.15%、雇用はわずかに0.07%の増加である。(US International Trade Commission 2016資料)
これに対し筆者は米国がTPPに復帰することは至難。RCEPからインドを排除せとの意見には反対。インドはポストチャイナとして年率7%以上の成長を持続している。インド出身のカマト総裁が主導するBRICS銀行は本年15のプロジェクトに25~30億ドルのインフラ融資を予定している。AIIBは参加国が57カ国から本年70か国に増加、さらに年内に90か国が加入する見込みという。アジアからヨーロッパへの中国の野心的な物流戦略「一帯一路」にも日本はAIIBともども参加すべきと訴えたが、意見の一致は見られなかった。
TPPを脱退した米国は4月中旬、ペンス副大統領をロス商務長官と日本に派遣。麻生副首相、財務大臣などと日米二国間交渉を始める。米USTRは3月31日、貿易障壁に関する年次報告書を公表。日本の農業分野と自動車に障壁があると指摘。トランプ大統領は日本や中国などの貿易赤字国との赤字削減へ強硬姿勢だ。日本は国益第一で交渉をすべきだ。