BIS論壇 『「死ぬほど読書」「生きていくあなたへ」読後感』 2017年10月7日 中川十郎

BIS論壇 『「死ぬほど読書」「生きていくあなたへ」読後感』 2017年10月7日 中川十郎

このほど首記2冊を読破した。非常に感銘を受けたので、参考までに読後感をお届けしたい。
『死ぬほど読書』(幻冬舎・新書)の著者は元伊藤忠商事社長でそのあと初の商社出身・駐中國大使として活躍された丹羽宇一郎氏である。丹羽氏は社長当時4000億円の不良債権をかかえた同社を見事立ち直らせた伝説の商社マンである。社長専属の社用車の使用を断り、地下鉄で毎日、通勤した社長としてかねがね筆者が尊敬していた方である。
商社業界のみでなく、財界一の読書家であることを知った。もともと実家が書店だったこともあり、若い時から読書家であったらしい。商社マンというのは昼はビジネス、夜は接待づけというのが定説だが、そのような中に在ってこれほどの読書をこなした商社マンは稀有である。「読書は本当の「知」を鍛える。理想は『大航海時代叢書』(岩波書店刊)25巻の読破で、この叢書を一点だけ書棚に残してある」とのことだ。
今回の著書の印税は伊藤忠兵衛関連諸資料が保存してある「志賀大学経済学部付属資料館」と日本で学んでいる中國留学生への奨学金として「日本中国友好協会」に全額寄付するというのもいかにも丹羽氏の面目躍如たるものがあり、感銘を受けた。
隆盛を極めるネットには信頼性の欠如という面で影の部分がある。その陰の部分を埋めるものとして、本は再びその価値が見直されると予言しておられる。
かってBIS名誉顧問の故小野田寛郎・元陸軍情報少尉が「情報源を確かめ、その情報が真実かどうか見極めることが大切だ」と力説しておられたことを思い出す。
丹羽氏の伊藤忠上司・瀬島隆三・元大本営陸軍部作戦参謀は『現場で一次情報を一刻も早く得ることがとても重要だ。「すべては現場に宿る」と自戒的教訓をのべておられた』と
丹羽氏は述懐しておられる。筆者が座右の銘にしている「実践なき理論は空虚、理論なき実践は危険」と一脈相通じるところがあり、強く共感した次第だ。丹羽氏はまた「ビジネスにおいては情報は生命線だ」「情報に振り回されないため、情報の質と精度を高めるための努力と工夫を惜しんではだめだ」「ネットを中心におびただしい量の情報があふれている現在では接する情報を一度は疑ってみる必要がある。そのためには日頃から常識的判断や情報リテラシーを磨いておくべきだ」と力説しておられる。昨今のフェイクニュースの氾濫時代、留意すべきアドバイスだ。
「『生きていくあなたへ』~105歳どうしても遺したかった言葉」(幻冬舎)は105歳まで長寿を全うされた日野原重明・聖路加国際病院名誉院長の死を目前に紡がれた、生涯現役渾身の最後のメッセージである。クリスチャンであった同氏の最後の遺言でもある。「私の長い人生が終わろうとしているけれども、私の人生だけではなくて、これから人生をまだまだ長く続けていくあなた達と一緒に、どのように受け継いでいくかー、感謝の気持ちでキープオンゴーイング」と最後のことばを残しておられる。筆者の大学恩師の五島茂・経済学者・歌人は103歳の生涯現役を全うされた。両氏に見習い筆者も、生涯現役で「一生勉強、一生青春」をモットーに残された人生を悔いなく生きたいと覚悟を新たにした。

BIS論壇 『日米経済関係の近況』 2017年10月1日 中川十郎

BIS論壇 『日米経済関係の近況』 2017年10月1日 中川十郎
さる9月28日、JETRO、米国大使館商務部主催の「変革の時代の米国製造業投資セミナー」が開催された。かって10年ほどJETROの貿易アドバイザーをしていたので、その関係もあり、参加した。
トランプ政権新任のウイリアム・F.ハガテイ大使も参加され、日本との経済関係強化の必要性を力説された。2016年に覚書をかわした、「セレクトUSA」以来、日米双方向の貿易・投資促進に向けて努力している日本は米国の大事なパートナーと認識しているとの発言があった。革新的でダイナミックな日本企業にとって、米国は最適の市場とビジネス環境と資源を有し、有望な市場であると強調された。同大使は20年前に日本にビジネスで3年間駐在され、またテネシー州経済開発庁長官を務められ、在任中テネシー州をFDIによる雇用創出で全米第一の実績を上げられた。同州への投資の65%が日本からで、同大使と日本との結びつきの強さを強調された。
50年目迎えた日本・米国中西部会の日米合同会議が東京で9月に開かれたこともあり、JETRO主催の上記投資セミナーには中西部17州の在日通商代表部からも参加し、日本からの投資を勧誘していた。
トランプ政権は米国が投資、雇用と経済成長を実現できる魅力ある進出市場となるよう、規制緩和や税制改正に向けて取り組んでいる。日本は米国にとって重要なパートナー国である。両国の共通の枠組みや価値観、世界に誇る技術や自然の相乗効果を考えると、多様で均衡的な双方向の投資の恩恵を受ける国は日本と米国以外にない。安倍首相の対日直接投資残高を倍増させる目標を称賛する。米国企業の日本市場への参入・拡大・成長を米国大使館でも奨励し、倍増させたいとの強い決意をのべられた。2016年の製造業の米国への直接投資は1兆5000億ドルで米国は世界最大の投資受け入れ国となっている。最大の対米投資国は英国で総額の16.1%を占める。カナダの12.2%に次いで日本は11・4%で3位。ドイツが10%で4位、アイルランドが7.5%で5位となっている。
日本の対米投資は製造業が33%、卸売業26%、金融(銀行除く)と保険が17%、銀行、情報関連がそれぞれ、6%となっている。業種別には輸送機器50%、化学25%、コンピューター、エレクトロニクス10%、金属製品9%となっており、自動車関連の輸送機器産業への投資が最大である。2016年の米国から日本への輸出額上位5州はカリフォルニア(114億ドル)、テキサス(62億ドル)、ワシントン(56億ドル)、イリノイ(25億ドル)、インジアナ(19億ドル)である。米国から日本へのサービス産業の輸出額上位5州は、カリフォルニア(74億ドル)、ニューヨーク(42億ドル)、テキサス(35億ドル)、フロリダ(30億ドル)、イリノイ、ワシントン(ともに19億ドル)である。2014年の日本企業の雇用者数上位州はカリフォルニア(12万人)、オハイオ(6.3万人)、テキサス(4万8000人)、インジアナ(47000人)イリノイ(41000人)などで主に自動車産業関連の雇用が占める。
21世紀アジアの時代を迎え、今後、ASEAN, 中国、インド、「一帯一路」諸国市場の重要性も増すものと思われ、米国に加え、アジアとの経済関係強化、構築も大切になろう。

BIS論壇 『日印関係と中国』 2017年9月30日 中川十郎

BIS論壇 『日印関係と中国』 2017年9月30日 中川十郎
9月13~15日、安倍首相がインドを訪問し、インド・モデイ首相と面談。これは2006年12月、インドのマン・モハンシン首相が訪日した時、相互に両国の首相が相手国を訪問するとの取り決めをしたことによる。安倍首相の訪印は2007年以来4回目となった。
今回は日印経済協力の象徴である「スズキ」の工場があるグジャラート州のア―メダバードを訪問。また日本が中国と対抗し、総力を結集し、1000億円の円借款で成功したアーメダバード~ムンバイ間の新幹線起工式に参列した。すでにニューデリ~ムンバイ間の貨物高速鉄道プロジェクトは、筆者がかって勤務していたニチメン(現双日)が4000億円で落札。工事が動き出している。筆者が入社当時の1960年代に、ニチメンは印度国鉄電化工事を請け負っていた。その経験と実績も奏功したものと思われる。
今回の日印首脳会談は日印の「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」協定に基づく。同首脳会談では懸案の北朝鮮問題も取り上げられたという。両首脳の主要な合意点は;
①中国を意識した安倍首相の「自由で開かれたインドアジア太平洋戦略」とモデイ首相が注力する『アクト・イースト』(東方戦略)をともに推進する為、『日印アクト・イースト・フォーラム』を創設する。
②中国を意識した『海洋安全保障協力の向上』
③日印によるアフリカへの協力のための「産業回廊と産業ネットワーク」の推進
④原子力平和使用による協力強化。~これには日本では問題視する見方もある。
⑤日本の得意とする「モノづくり」を導入、推進するための「モノづくり学校」の設立。
~これはモデイ首相が唱えている「Make in India」への支援と思われる~
⑥インドでの日本語教育を推進するため、5年間で100の高等教育機関で認証日本語講座を設立。1000人の日本語教師を育成。
⑦ヒンズー教の聖地ベナレスに最先端コンベンション・センターを建設するなど合意。
かねて日印の協力、特にアフリカでの日印協力に関心を抱く中国は、筆者がインドに駐在したことも踏まえ、中国テレビ局で日印問題に関して話しするよう依頼を受けていたが、インタビュウ前日になり、急きょ対談相手のアナウンサーが急病だとし出演が延期になったのは残念であった。
日本の優秀な製造技術を活用し、印度でモノを作り、それをインドと組んでアフリカに輸出することに中国はことのほか神経をとがらせていることがうかがわれる。21世紀の未来の10億人有望市場のアフリカで日印と中国が競合することに関して、中国は日印を競争相手として特に関心を高めているようだ。
アフリカには今日、印僑1000万人が在住、隠然たる力を有している。中國もアフリカに1000社進出、100万人の中国人が働いているが、歴史的にもインドのアフリカへの影響力は中国をしのぐ。その印僑と日本の技術と資本が合体すると中国に大きな影響を与える。
だから中国はアフリカでの日本とインドの「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」に基づく日印協力を展開されることをことのほか気にしているようだ。

BIS論壇 『一帯一路近況』 2017年9月30日 中川十郎

BIS論壇 『一帯一路近況』 2017年9月30日  中川十郎

9月27日、中國研究所とシルクロード研究会共催の第2回ユーラシア・アジア動向セミナーが竹橋の毎日ホールで開催され参加した。『一帯一路』に関して汪婉、中國の駐日本大使館・友好交流部参事官が『「一帯一路」政策の展開とアジアインフラ投資銀行(AIIB)』と題して講演された。有益だったので概要を下記報告したい。
2013年9月、習近平・国家主席がカザフスタンのナザルバエフ大学で講演し、「シルクロード経済ベルト」構想を提起。2013年10月、ASEANを歴訪、インドネシアの国会で「21世紀海上シルクロード」構想を提案。
2013年12月、中國経済工作会議で「シルクロード経済ベルト」建設の推進を指示。
構想発表以来4年間で『一帯一路』構想は急速に具体化に向けて動き出している。
『一帯一路』は中国と欧州を結ぶ交易路をシルクロードに沿って中国が構築を目指す経済圏構想である。「一帯」は、中国を起点に中央アジア、ロシアを経由し、欧州に至る「シルクロード経済ベルト」と「一路」は、すなはち、中国沿岸部から南シナ海、インド洋を経て、欧州につながる「21世紀海上シルクロード」からなる。
「一帯一路」は「6廊6路」からなり、それは下記である。
①[新ユーラシアブリッジ]経済回廊 ②中国、モンゴル、ロシア経済回廊 ③中国、中央アジア、西アジア経済回廊 ④中国、パキスタン経済回廊 ⑤中国、インドシナ半島経済回廊 ⑥中国、ミャンマー、バングラデシュ、インド回廊よりなる。
「一帯一路」沿線の総人口は44億人(世界人口の63%)、GDPは21兆ドル(29%)で21世紀に最も発展が予想され、地政学的にも重要なユーラシアの将来を左右するものと思われる。一帯一路は高速鉄道、高速道路、空路、海上交通さらに情報通信でユーラシア各国を連結し、アジア経済の「西方シフト」を目指すものである。
「一帯一路」の目標は ①「一帯一路」構想を通じて、中國は国際協力を促進し、「平和、発展、協力、ウィンウィン関係」を目指す。さらにアジア地域のインフラ建設とコネクティビティを推進し、地域協力の強化、域内各国の共同発展を実現する。中國自体も「一帯一路」構想を通じて、さらなる高水準の改革開放を促す。「一帯一路」の共同体理念は、①責任共同体、②利益共同体、③運命共同体を維持するために、①政治関係の信頼醸成、②経済関係の融合、③包容する文化関係を創出することである。5つの疎通として①政策の意思疎通、②インフラのコネクティビティ、③資金の融通、④貿易流通の拡大 ⑤民心の疎通を目指す。中国と「一帯一路」沿線国との貿易総額はすでに3兆ドルを超え、沿線国への投資は500億ドルを超えている。中国企業は20カ国と56の経済貿易協力区に11億ドルの税収増加と18万人の雇用を創出。中國と欧州を結ぶ貨物物流は2011年3月以来、51の運輸網を整備、4000本を運行。すでに中國28都市と欧州29都市が連結している。
このように「一帯一路」戦略はAIIBの融資もあり、急速に具体化しつつある。日本としても「一帯一路」構想とその融資銀行の「AIIB」に早急に参画することが肝要だと実感した。

BIS論壇 『中国を訪問して』2017年8月29日 中川十郎

BIS論壇 『中国を訪問して』2017年8月29日 中川十郎
 8月20日から23日の河西省・九江市の国立職業大学訪問の途次、5年ぶりに上海を訪問した。成田空港とは比較にならない広大な空港の大きさに圧倒された。2013年に開催された上海万博を機に整備された空港は鳥の形を模し、北京空港に次ぐ壮大なもので、躍進する中国の勢いをまざまざと感じさせられた。上海市中心部へはドイツが建設したリニアモーターカー、地下鉄、バスとアクセスが良い。南昌空港への乗り替えまで時間があったので、地下鉄で上海中心部に向かった。車内で、若い女性から席を譲られた。日本の地下鉄や電車ではありえない光景だ。共産主義政権でも儒教は生きており、高齢者に対する尊敬の念は健在だ。日本の車内で優先席に陣取りスマホに没頭し、席の前に高齢者や子供ずれが立たっていても意に介さぬ日本の若者とは雲泥の差だ。このような若者の道徳観念では日本の将来を憂えざるを得ない。到着日の翌日、20年前から職業教育に尽力している九江・国立職業大学を訪問した。日本の大学とは比較にならぬ38万平方メートルの広大な敷地に職業実習・訓練施設や図書館、運動場、寄宿舎を有する廣さには驚愕した。在学生は16000人。師範教育学院、技術学院、機械工学院、建築学院、情報工学院、経済経営学院、文化観光学院、看護学院、農業経済技術学院があり、全中国の28省からの学生が学んでいる。本年は初めて看護学院から日本に研修生が派遣されることになったと副学長から説明があった。日本ではやっと2018年度から短大や職業大学院での職業専門教育開始を検討しているが、中國では職業訓連大学は30年の歴史があるとのこと。日本は実践的な専門教育において大幅に出遅れていることを痛感させられた。
 翌日は宋時代からの1000年の歴史を有する陶器製造で世界的に有名な景徳鎮を訪問した。九江から景徳鎮までの100キロにわたる高速道路の両脇と中間帯は植林され緑のベルトが続き圧倒された。景徳鎮の1000年を超す、陶土の発掘現場は禿山を植林しており、同行の副学長が中国の環境保全、グリーン革命を自慢していた。中国政府の国をあげての環境革命の実態を目の当たりにした。景徳鎮の陶芸文化保存にも熱心で、景徳鎮三宝陶芸研究院、景徳鎮国際陶芸村博物館で世界の陶芸研究家も参加し、国際的な陶芸文化保存に尽力している努力に感銘を受けた。日本とは有田、瀬戸、最近、金澤と姉妹都市を締結。文化交流をしている由。沿道での建築建設が大半ストップしている様は中国の不動産不況の実情を具現していた。津上俊哉氏の近著『「米中経済戦争」の内実を読み解く』(PHP新著)や何 清漣、程 暁農 共著『中国~とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国”のカラクリ』~在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる~(ワニブックス)などでの中国は「崩壊」は免れようが、「衰退」するとの説に配慮の余地はある。だが、今回、上海、南昌、北京の現地を訪問し、中國は高度成長の光と影とひずみ、人権など問題はあろうが、21世紀のユーラシアの陸と海の巨大経済圏物流戦略「一帯一路」を含み、驀進する中国は、大方の予想通り、2025年ごろには米国に並ぶか肉薄する大国に成長するのではないかと実感させられた。
日本の中国進出企業は2万社。最大の輸入先が中国。
輸出先では米国に次ぐ2位だ。日本は中国敵視政策を改めて、中國との友好促進に尽力すべきだと痛感した。